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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第4章 新たな旅立ち編
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カンネへ3

 ジャングルを切り開いて畑を作る……だなんて数日で終わる事じゃない。ウェイドはまた「のんびり待つんじゃ」と言って昼寝の毎日。曰く、長旅で疲れた、山登りにも疲れた。老人には少し休養が必要なのじゃと。

 仕方が無いので、私はカンネの各茶産地を巡り、お茶を飲み比べ、カンネのお茶の知識を学び始めた。


「ロンドヴィルムに比べて、茶の葉の大きさが小さい」

「ああ……品種が違うのでしょう。確かロンドヴィルムはレリから茶樹を移植した……と、ウェイド師匠から聞きました。カンネはもっと東の国からずいぶん昔に茶樹を持ってきたらしいので、元が違うんでしょうね」


 ヨハンが色々説明してくれるので助かる。流石学院で農業を学んだだけあって、知識は豊富だし、説明はわかりやすい。ウェイドももう少し説明してくれたら楽なのにな……と溜息。


「茶の葉が大きい方が、同じ重さの茶を収穫する為に、お茶を摘む手数が少なくてすむでしょう? 少ない手数で収穫量が増やせるし、その分農家の儲けも多くなる。でも……カンネで長年作られてきたお茶の味の伝統もあるし、なかなか別の品種に挑戦できないんですよね……」


 味の美味しさだけでなく、生産量とか茶の木の病気対策とか、色々大変なのだな……と改めて学ぶ。ロンドヴィルムでは、農家の人は現場で長年の経験で得た知識だけで作ってきた。学校で改めて農業を学んだヨハンとは物の見方が違って新鮮だ。


「茶師の姫君のおかげで、紅茶という新しいお茶に挑戦できるようになって楽しみなんですよ。ありがとうございます」

「私がやりたくてきた事ですし……こちらこそ色々ありがとうございます」

「いえ……リーリア様から、茶師の姫君にできるだけ便宜を図ってくれと連絡をいただいてるので」

「リーリア様から……ですか?」

「ええ、クレメンス家は昔から私の家の大きな支援者なので。今回の紅茶作りにかかる費用も負担していただきました」


 それは知らなかった。これも父の手配……なのだろうか?

 美味しい紅茶が出来上がるまでに時間もかかるし、さらにそれを売り物にできるようになるまで時間がかかる。その間紅茶だけしか作らなかったら、まったくの収入0で暮らしていけない。だから紅茶が売り物になるまで、ヨハンの家が生活して行けるだけの、金銭的援助をリーリア様がする約束になってると。

 農家の人々には、彼らの生活があって、それを保証しなければ、長期的な生産は無理なのだ。


「リーリア様からの手紙に書かれてた事なのですが、もしかしたら今後、紅茶生産に国が補助金を出す……可能性があると」

「補助金が?」

「皇帝夫妻や皇太子殿下達がたいそう紅茶をお気に召したらしいです。リドニー宰相も国の特産として輸出できるなら、補助金を出す価値があるかもしれないと検討を始めたとか。まあ……まだ検討中という事らしいですし、もし決まっても実際に制度が始まるのが何年後になるのかわかりませんが」


 茶師の姫君の名前がカンネで好意的に扱われたのは、私が皇室茶会で皇帝一族にお茶を振る舞った結果、お茶産業への投資が増えるかもしれない……という期待の結果なのだとか。

 まさかあの皇室茶会がここまで影響を与えるとは思わなかった。一生懸命仕事して、良い結果を出せば、その次に繋がる。やっぱり仕事っていいな。努力した結果が報われるもんね。


 そうやってヨハンに色々教わりながら、1週間が過ぎた頃、ウェイドがひょっこり私の所にやってきた。布の袋を取り出し、私に見せてくれる。


「これは茶の木の種じゃ。ロンドヴィルムから持ってきた。カンネと品種が違うからの。どっちの品種がより紅茶にあってるか、実験してみなけりゃならんじゃろう? あの新しい畑にこれを植える」


 なるほど……今カンネにある茶の木だけじゃダメだという事が、やっとわかってきた。


「茶の木はな、2種類育て方がある。種から植えるもの。枝をとって挿し木するもの。種からの方が味は良い。でも挿し木の方が沢山茶葉がとれる。商品として大量に作るには、両方混ぜて作らにゃならん」


 味が良くても、生産量が少なければ商売がなりたたない。味と生産性。その両方のバランスが必要なんだ。


「それでな、種を植えるじゃろう? それで育った木の枝を使って挿し木で育てるじゃろう? その挿し木の茶樹から茶を作れるようになるまで、どれくらいかかると思う?」

「……わかりません」

「最短でも10年以上かかるな。途中病気や災害で、茶樹がダメになるような事があれば、もっと時間かかるのじゃ。それだけ時間がかかる事を、世界中の茶産地で行う。そして紅茶の産地を集めて祭りをやる。それは、お嬢ちゃんが生きてる間に成し遂げられるのかのう」


 がつんと岩で殴りつけられたような衝撃を受けた。茶の木を育てるのに、それだけ時間がかかると思ってなかった。

 私は他の産地で紅茶を作る事を、簡単に考えすぎていたかもしれない。ロンドヴィルムでは、父が積極的に農家を援助していたけど、別の地方でも同じように、紅茶作りに理解を持って援助してくれる人がいるとは限らない。

 カンネはまだ帝国の領土だから、アルブムの私の知り合いの援助を見込めるが、他国に行ったらそんな援助の伝手などない。本当に私は現実を甘く見すぎてた。ウェイドに「夢見るお嬢ちゃん」と言われても仕方が無い。私は唇をぎゅっと噛み締めて落ち込んだ。

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