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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第4章 新たな旅立ち編
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カンネへ1

 張り切ってカンネに行くぞ! と、思ってたのに……未だに私はロンドヴィルムにいた。ひなたぼっこしながら昼寝中のウェイドを眺め、苛立を隠せない。


「ウェイドさん……起きてください。いつまでそうしているつもりですか。早くカンネに行きたいんですけど」

「まあまあ……そう、焦らんでも。お嬢ちゃん。茶を作るのに、焦るのは禁物じゃよ。良い茶を作るには、良い茶の木を育てにゃならん。良い茶の木を育てるには、良い畑を作らにゃならん。そういう積み重ねが大事なんじゃよ」


 それを毎日言われて、すでに1ヶ月がたった。父が何か色々手回しをしてる……と言ってたし、準備不足と言いたいのかもしれないけど、先に行って視察したり、現地の人に挨拶回りしたりしててもいいじゃない……とやっぱり苛立ってしまう。

 一応一日一回父の元にウェイドが顔を出しにくるが、それ以外はずっとこんな感じに昼寝中だ。本当にこの人と一緒で大丈夫なんだろうか……。

 それからしばらくしてやっとウェイドの重い腰があがった。


「旦那様の許可がでたから、お嬢ちゃんそろそろカンネに行くかね」


 結局私より父を信用してる……という事なのね。仕事のパートナーに信頼してもらえないって辛い。


 ロンドヴィルムから船で南に10日。やっとカンネについた。まず最初にカンネの砂浜の赤さにびっくりした。道の途中の土地も赤いし、島全体が赤茶系の土なのね。鮮やかな青空と、豊かな自然の緑と、赤い土。ロンドヴィルムより日差しが強いし、極彩色豊かな自然が、別世界に来たな……という感じがする。

 でも……ここも同じ帝国内なのよね。土の種類がこれだけ違うなら、育つ茶の木も違うのかしら? と気になる。


 船がついてすぐ迎えの人が来たので、驢馬にゆられて山道を登る。私達のお世話になる茶農家は、山の中腹にあるらしくて、そこまで3時間はかかるらしい。驢馬に乗り慣れてない私には結構キツかった。ウェイドは大丈夫だろうか? と思ったけど、驢馬の上でも昼寝してて、その大物ぶりに呆れるを通り越して感心する。

 山道といっても、茶葉の出荷用の馬車も通るので、結構広めに作られている。その道を驢馬に乗って登りながら山の風景を眺めてて感動した。ロンドヴィルムよりずっと茶畑が広い。ロンドヴィルムは海に近い比較的標高があまり高くない山にある。

 カンネはもっと標高の高い山があって、山の下の方から上の方まで、茶畑が広大に広がり、茶畑の合間にジャングルがある……という感じ。綺麗に整備された茶の木が並ぶ姿は、まるで緑のタイルで作られたタペストリーみたいだ。

 もうじき目的地に着く……という頃になって、いくつか建築中の建物が見えた。山の中にいきなりぽっかりなので違和感がある。

 家……にしては大きすぎるし、何を作ってるのかしら?


 そんな驢馬の旅の果てに目的地に到達した。


「ようこそ茶師の姫君。貴方の噂は遠いアルブムからこのカンネまで届いてました。お会いできて光栄です」


 そういってにこやかに握手を求めたのはヨハンという名の青年だった。これからしばらくお世話になる茶農家の人だ。20代半ばの見た目好青年……なんだけど、ちょっと軽い。私も挨拶をして握手を返すのだけど、中々手を離してくれない。


「噂には聞いてたけど……噂以上に可愛らしいお姫様だな……」


 歓迎してもらえるのはありがたいけど、変な好意をもたれると困るな。私は半ば強引に手を振り払う。


「長旅お疲れでしょう。今お茶を用意するので、どうぞゆっくり休んでください」

「あ、あの……お茶は嬉しいのですが、できれば砂糖もミルクもなしにしてもらえませんか?」

「……さっそくお茶の試飲ですか? 仕事熱心な方ですね。のんびり休めばいいのに」


 遊びじゃなくて、仕事に来たんだから当然! と思うのだけど。なんというか……のどかな土地柄なのかな。私が張り切りすぎなんだろうか。


「そうじゃのう。お茶を飲めば、夢見るお嬢ちゃんも、ちょっとは現実がわかるかのう」


 夢見るお嬢ちゃん……って、ウェイドは完全に私を馬鹿にしてるよね。なんでそこまで嫌われてるんだろう、と溜息。

 でも運ばれてきたお茶を一目見てびっくりした。


「これ……カンネのお茶ですか? これをアルブムに送ってるんですか? 種類が違うとか……」

「アルブムに送ってるのと同じのですよ。うちはクレメンス家の方にも贔屓にしていただいてるので」


 リーリア様に届くお茶と同じという事は、私もアルブムで飲んでるはず……なんだけど。あの時よりお茶の色が濃い。恐る恐る口につけて見ると、アルブムで飲んだ時より香りが弱くて味が濃い。

 輸送中に香りが落ちるはずなのに、なんで? どうして? と頭の中がぐるぐるする。


「お嬢ちゃん。水を飲んでごらん」


 そうウェイドに言われて水を頂く。それでさらにびっくり。アルブムやロンドヴィルムと全然違う。


「これは……硬水?」


 独特の風味と癖は、地球でコントレックスを飲んだ時を思い出した。日本の水はほとんど軟水だから、硬水というとミネラルウォーターくらいしか元日本人の私には馴染みがない。

 アルブムやロンドヴィルムでは、軟水だったしそれに馴染んでたから、この世界にも硬水があるという発想が無かった。

 確か……硬水で入れた方が、紅茶は色が黒ずみ、味が濃くなり、香りが弱くなる。


「このカンネの水で入れたお茶を試飲して、アルブムの水で入れた場合を推測し、商品として売れるか見極める。そういう事、お嬢ちゃんにできるかね?」


 ウェイドに真顔でそう問われて即答できなかった。たった水一つでここまで違うなんて……と、途方に暮れる。

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