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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第4章 新たな旅立ち編
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青天の霹靂

 それは本当に突然だった。私が茶畑に行こうと玄関に向かった時に外から聞こえてきた声。


「マリアが行方不明ってどういう事!」


 厳しく詰問する声に覚えがあって、でもなぜここにいるのか、あり得ない……そう思いながら玄関に向かった。使用人に向かって厳しく話しかけてるのは、まごう事なきーー


「リーリア様! どうしてここに」


 金髪の髪が日差しを浴びて輝くばかりに美しい、リーリア様がそこにいた。


「貴方は誰? どうして私の名前を知ってるのかしら?」


 あ……そうだった。今私はマリアじゃなかった。不味いと慌てて取り繕う。


「お噂はキース様からかねがねお聞きしてます。ここで立ち話も申し訳ないので、中でお話しませんか?」

「そうね。案内してちょうだい」


 私も一応客人扱いされてるから、お客様対応するのもおかしな話なのだけど、今父は仕事の為にロンドヴェルムを離れている。キースは領主代行で忙しいし、母よりも私の方がリーリア様に慣れてる分いいんだろうな……と、勝手に接客してた。


「ヴィーダね。ここの客人の貴方から事情を聞くのもおかしな話だけど、事情はわかったわ。とにかくマリアの居場所は知らないのね」

「はい。領主のロイド様も探しまわっておいでで、それで忙しく……。あの……マリア様に何かご用件があったのでしょうか?」


「マリアがここにいないなら、ここの人間に聞く方がいいでしょうね。貴方、最近ロンドヴェルのお茶の輸出が減ってるのは知ってるかしら?」

「はい。ロイド様が輸出制限をされました」


「そこよ。なぜ制限をかけるのか。せっかくアルブムで人気が出てるのに、商品が手に入らなくて困ってるのよ。その理由を知りにやってきたの。人を送って調べさせても要領を得ないし、自分で現地を見に行く事にしたのよ。アルブムを出た事なかったから色々勉強になったわ」


 なるほど……アルブムでの販売権を管理してるだけあって、輸出の事まで気にかけてくれてたのは嬉しい。何か行き違いがあってリーリア様に輸出制限の件が連絡いかなかったのだろう。


「実は……連作障害で茶の栽培に問題が起きてて、減産せざるをえず……」

「連作障害? それは何かしら? 金銭的援助で解決する問題なら、わたくしも力を貸すわよ」


 お茶に詳しいと言っても、リーリア様が知ってるのは茶葉の種類や味だけ。さすがに茶の生産についてまでは解らないだろう。


「よろしければ茶畑を見学されませんか? せっかくお越し頂いたのですから見物しつつご説明致します」

「貴方が? いいわ。つれていきなさい」


 リーリア様が首を傾げながらついてきた。まあ……客人の私がなんでこんな対応をするのか……とおかしく思っても仕方がないか。

 茶畑に案内し、木の生育状況を茶園の人に説明してもらったり、加工場での製茶も見物したり。リーリア様はそれなりに楽しんでいたが、生産者の専門用語を駆使した説明に理解が追いつかず、その都度私が噛み砕いて説明したり……で、結構時間がかかった。

 それでもなんとか連作障害というのがどういう物で、減産も仕方がない事は納得してもらえた。

 リーリア様もだいぶ疲れたみたいだったので、今夜はうちで休んでもらおうと、夕食を一緒にとった。キースも同席して、キースが使用人ではなく領主代行になっていた事も驚いていたけれど、すぐにリーリア様は納得した。

 リーリア様の物わかりが良すぎて、なんだか嫌な予感がした。


「食事の後、ヴィーダと二人だけで話がしたいから、お借りするわね。キース」


 リーリア様はそう言って、私の同意も確認せず確定事項で無理矢理二人きりにさせた。リーリア様は二人きりになったとたんきっと私を見つめて言ったわ。


「はっきり言うわ。貴方マリアでしょう」

「は…はい? 私はヴィーダです。見た目も全然違うでしょう」


 なぜそんなに断定するのか。これだけ外見も声さえも違うというのに。


「なぜその姿なのかは私にはわからないけど、貴方はマリアよ。私を一目でわかり、この家や街を自分の居場所の様に案内できて、何よりあのお茶の知識。茶職人と茶販売両方の知識を持って、私の事も熟知してないとあの説明はできないわ」


 リーリア様の洞察力はすごい。これだけ見た目が違っても、先入観を抜いて人の本質をずばり見抜く。これはとてもごまかしきれない……。そう観念した。観念して私は腕輪をとった。


「すみません。リーリア様」


 腕輪をとって元の姿に戻った時はさすがにリーリア様も驚いたが、すぐに気持を切り替えたリーリア様の揺るぎない安定感。すごい。


「事情を説明しなさい。貴方がそうやって正体を隠してる理由を。何かあるのでしょう? 私ができる事なら力を貸してあげてもよくてよ」


 リーリア様に治癒の魔法の力についてと、ジェラルドの懸念を話し、どうにかこの件は内密にして欲しいと頼み込んだ。話を聞いてリーリア様は少し考え込んだ後頷いた。


「治癒の力は確かに多くの人を救うとても重要な力ね。……でも、貴方のお茶に関する知識と技術だって負けない程の価値があると思うわ。それを腐らせるのはもったいない。お茶を愛する者として許せないわ」


 あ……この人もお茶バカだ。どこまでもぶれないリーリア様にほっとした。


「そう言っていただけると嬉しいです。私自身今後どうして良いか……と悩んでいたので。お茶の仕事は続けたいけれど、何をしていいかと……。あの、私にお茶の仕事を続ける価値があるとおっしゃいましたが、私の価値ってなんでしょう?」


 客観的な意見を聞いてみたかったのだ。私がお茶が大好きで、お茶に関わる仕事をしたいと思ってる。そんな私の仕事での強みはなんだろうかと思ったのだ。


「そうね。今日、貴方が茶の生産地を、案内して説明した事が一つの価値よね」

「はい……?」


 私が理解できずに首を傾げると、できの悪い生徒に教える教師の様にリーリア様が説明した。


「お茶作りは農家、販売は商人という専門家がいる。そして私のような客がいる。この全ての目線で理解して、生産から客まで繋げて物を考えられる人材を私は他に知らないわ」


 それは青天の霹靂のような言葉だった。

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