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茶師の姫君〜異世界で紅茶事業を始めました〜  作者: 斉凛
第4章 新たな旅立ち編
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夢の中の再会

気づけば更新止めたまま2年たってました……。

申し訳ございません。時間がかかっても最後まで書きますので、お付合いいただけると嬉しいです。

 ふわり、ふわり、揺れる不思議な感触を感じながら目覚めた。

 白い綿の様な感触と何もない空間に、からからと糸車が廻る音がする。嫌な予感がして私は飛び起きた。そこにいたのは忘れもしない、緋色の衣を着た老婆……アトロポスだった。


「お目覚めかね」

「な、なんで私ここに……まさかまた、死んだの」


 恐怖に身がすくむ。起きる前の記憶はまだ朧だが、死ぬ様な危険な状況ではなかったはず。


「死んでおらんよ。安心せい。まだまだお前さんは生きられる。話があって呼び出したのじゃ」


 そう言うラケシスの後ろから、クロトが緋色の糸玉を持って現れた。緋色の糸玉の先を弄びながら不思議な微笑を浮かべている。


「これはな……お前様の前世の糸玉じゃ。あの時断ち切ったな。普通は死ねば人の命の糸玉は、ばらばらになって、また糸から紡ぎ直しのはずなのじゃが……なぜか17年たってもまだこの通り残っておる。ほんに不思議よのう……」


 目を細め緋色の糸玉をアトロポスへと渡す。アトロポスは手近にあった黒い糸の先と緋色の糸玉の先を重ね合わせていた。


「この糸玉……色々試してみたのじゃ。ほんに不思議だったからのう……試しに寿命が尽きるはずの他の人間の糸の先に結んでみたのじゃ。そうしたら……寿命より少し命が延びた。こんな事は初めてじゃ。面白い面白い」

「前世とはいえ……人の寿命で遊ばないでよ」


 三人の老女のカラカラと笑う声が響く。クロトがこほんと咳払いをし口を開く。


「すまぬ。珍しい故試したのじゃ。おかげで48年分に縮まってしまったが……それでもまだこれだけ糸玉は残っておる。そこでこの糸玉を元の持ち主のお前様にゆだねようと思ったのじゃ」

「……え? それって…どういう事?」


 糸車を止める事なく器用に回し続けながら、ラケシスは孫に何かを諭す老婆の様に微笑んだ。


「お前さんが望む時、望む者に、望むだけこの糸を繋げよう。さすればその者は寿命より長く生きながらえよう。もちろん…お前さんの寿命であっても、他人の者であっても」


 それは衝撃だった。ただ……糸を結ぶだけ。それだけで死ぬ定めの人を生かす事ができるのだ。それはどれほどの奇跡か。

 アトロポスは黒い糸先から指を離し、私の緋色の糸玉を私の方へと差し出した。


「こんな話をされてもすぐには使い道など思いつくまい。じゃから……使いたくなった時がきたら、我らの事を思い出し心に願うが良い。お前の願うままに我らが糸を繋ごう。命の糸を……」


 私は自分のかつて命だった緋色の糸玉に手を伸ばそうとした。しかし……体がだるく動きは緩慢で、老婆達の存在も霞んで行く。


「待って!」


 叫んで手を伸ばした時、目が覚めた。ゆらゆらと揺れる船室の中。木で作られた天井が見えた。なんだ夢か……と顔に手を当てようとして違和感に気づいた。


「あ……」


 私の腕に緋色の糸でできた腕輪があった。ただの糸を結んだだけ……だが、あの時見た糸玉と同じ色だった。

 眠る前にこんな物をつけた覚えもないし、じっと見てるうちに霞の様に朧になって消えて行った。

 あれは夢ではなかったのか……と実感し、心臓がどくんと音をたてる。


「命……か……」


 まだ自分の命が尽きるわけでもないなら、まだ死は身近な物に感じられない。誰かの命を長らえさせたいと思った事もない。老婆達の言う様にゆっくり考えるしかないのだろう。

 その時こんこんと、扉をノックする音が聞こえた。


「お嬢様、よろしいでしょうか?」


 キースの声が聞こえて私は起き上がって簡単に身繕いをした。


「大丈夫よ」


 私の返事を待ってからキースが部屋の中へと入ってくる。


「あと半日程でロンドヴェルムにつくそうです。お支度をお願いします」


 そう言ってキースが差し出したのは、赤毛のかつらとフードのついたローブ。それを見て夢の中の出来事より一気に現実の問題へと引き戻される。


「久しぶりの故郷なのに、どうして正体を隠さなきゃいけないのかしらね……」

「わかりません……あの男の言う通りに従うのは気が進みませんが、それがお嬢様の為という事なら仕方がありません。事情は旦那様が教えてくださるのでしょう?」


「そうね……」


 そう呟いて私は目をつぶって思い出した。あの茶会の日にジェラルドが見せた慌てた表情を。

 あの後すぐに何の説明もなく、正体を隠してすぐにロンドヴェルムへ帰れと私を急かした。理由は父に聞けばわかる。マリアの人生がかかってるのだと。

 ジェラルドがあんなに真剣に必死になった姿を、キースは見た事がなかったので、キースさえもこうして従って言われるままに、急いでロンドヴェルム行きの船にのったのだ。


「私の人生か……」


 まだ漠然とした未来に想いを馳せながら私は立ち上がって伸びをした。ーーまだ耳に残る糸車の音を感じながら。

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