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珈琲にこめられた想い

 この世界に珈琲は存在する。アルブム近郊では栽培できないから、南の国から輸入するのだが。なぜかこの国では珈琲は労働者階級の飲み物であり、身分の高い人間が飲む物ではないとされている。

 お茶はティーポットでゆっくり蒸らし、少しづつポットから茶を注いで飲む。時間をかけて優雅に飲む物だからかもしれない。

 珈琲はカフェインが多い。カフェインは覚醒作用と供に疲労回復効果もある。それに短時間で一気に飲める。疲れた体に活を入れて、働くファイティングドリンクなのだろう。

 珈琲と紅茶の飲み方の差が、この国での身分差を生んでいるのかもしれない。


「身分の高い皆様は、飲んだ事がない方も多いでしょう。でもこれもそう悪くない物ですよ。ちょうど今日のような菓子には、お茶より珈琲の方があうと思うのです。珈琲と一緒にどうぞ」


 珈琲と一緒に配ったのは、2つのビスケットの間にバタークリームをサンドしたお菓子。実はこの世界にまだ生クリームはない。バタークリームもあまり一般的ではないようだ。焼き菓子の中に入れて食べる事はあるようだが、こうしてクリームとして食べる事がないという。

 菓子職人に相談して、この国で手に入る原料と、調理技術を駆使してこの形になった。クリームの中には酒に漬けたレーズンもいれてある。

 イメージは某北海道の名菓だ。私は結構あのお菓子が好きで、北海道に行く友人には必ずあれを買ってきてもらったりする。

 この国での菓子というと、一般的なのは焼き菓子類で、こういう生菓子は珍しい。バター自体は古くから存在する物なのに、クリームが普及しないのは保存技術の問題かもしれない。


 菓子を出されて珍しそうに皆眺めていた。


「こちらも直接手に取ってお召し上がりください」


 おそるおそる口にすると、みんなの表情が輝いた。


「この蕩けるような味わいと風味はバターか? しかしこんな菓子初めて食べたが、とても美味しいな」


 皇帝が感嘆するように呟いた。他の客達も同意見のようで、口々に美味しいと言い始める。


「なるほどね……。このバターが重過ぎるからお茶だと負けるんだね。珈琲ぐらい力強いと、バターの味をさっぱりと洗い流してくれるよ」


 ジェラルドが言う通り、この菓子は珈琲のために作った。日本でもクリームたっぷりの、ケーキなどに紅茶をあわせたりするが、正直紅茶が負けてしまうので、珈琲の方が相性が良かったりする。焼き菓子などクリームのないお菓子の方が紅茶にはあうと思うのだ。


「確かに……珈琲とこの菓子があうのは認める。しかしなぜ珈琲を出したんだ? この茶会の趣旨にあうというのはどう言う意味だ?」


 ラルゴが探るような目で問いかける。私はゆっくりと深呼吸をして、その眼差しを受け止めるように微笑んだ。


「亡くなられたアンネ様は、仕事の合間に珈琲をよく飲まれていたようです。眠気が飛んで元気になるからと。睡眠時間を削って働いた、アンネ様を助けるための珈琲だったようですね」


 アンネという言葉に、ジェラルドとラルゴとソフィアの表情がこわばる。皇帝夫妻は不思議そうに見返し、リドニー宰相だけは、変わらぬ穏やかな微笑みを浮かべている。


「確かにわしも政務の合間に珈琲を飲む事がありますわ。お茶より素早く飲めて、効果的だからのう。あの娘もそうだったか」


 リドニーがそう言うと、皆が驚いたように振り向いた。上流貴族の宰相が実は珈琲を飲んでいた。それが意外だったのかもしれない。


「この茶会はアンネ様の話をするために皆様をお招きしました。だから彼女が飲んでいた珈琲をだしたかったのです。茶飲み話だと思って、食べながら聞いていただけないでしょうか? アンネ様の話を」


 皇帝は鷹揚に構えて許可してくれた。皇帝陛下が認めた事に皆が否と言う事はない。私は次のお茶の用意をしつつゆっくりと語り始めた。ラルゴから聞いた話を要点をまとめて、完結に話していく。その途中皇帝がある事に気づいて、思わず口を挟んだ。


「カンパニーヌ領のアルマ・ウィズリーが、ラルゴの所に陳情にきていたのか?」

「陛下もご存じなかったのかしら?」


 皇后がおっとりとそう聞くと皇帝はゆっくりと頷いた。


「ラルゴからもリドニーからも報告がなかったな」

「……そうなのですか? 父上。私はてっきりリドニーから話が言ってる物と思い込んでおりました。報告せずに申し訳ありません」


 ラルゴと皇帝はそう言いながら、リドニーの方を見た。二人の視線を浴びても、まったく動揺したそぶりは見せずにリドニーはいつものように微笑んでいた。


「陛下に報告するまでもなく、最小限の被害で終わらせましたので」

「カンパニーヌ領の反乱が……か?」


「陳情が来た時点で、それが真実かどうかは半々でした。だからその陳情を受けた事にして、裏付け調査を行い、反乱の可能性があると判断して、鎮圧の兵も用意致しました。ですからあれだけ早期に最小限の被害で解決したのですな」


「死者8名。負傷者52名が最小限ですか?」


 私が宰相に挑むように踏み込むと、宰相は面白いものを見つけたように笑った。


「調べたのですな。戦争において、被害が全くないなど有り得ないのじゃ」


 私は宰相の言葉を受けるように、宰相から聞いたアンネとのやりとりを語りだした。

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