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茶会のしきたり

「え……お茶会のテーブルセッティングも細かい決まりがあるのですか?」


 私が困惑していると、出来の悪い生徒を教えるように、リーリア様は答えた。


「貴族には格に応じてそれぞれ使用して良い色という物が決められているのですわ。まず皇室となると、帝国を象徴するロイヤルブルーね。それから皇帝の色はクリムゾンレッドと決まっているし、皇后はクロムイエローね。二人の皇子にもそれぞれ色の決まりがありますわ。ラルゴ殿下はシーグリーン。ジェラルド殿下はオールドローズね」


 リーリア様は言いながら、色見本のような紙を並べてみせた。どれも渋めな色合いで上品な色が多い。


「テーブルセッティングの際には、この色を中心に組み合わせてバランスをとる必要がありますの。テーブルクロスやティーセット。テーブルに飾る花から色々ね。まあソフィアごとき下級貴族の娘の場合は、他の方々を引き立たせるような白が良いかしらね」


 テーブルセッティングにそこまで考えるとは、なんだか結婚式の披露宴みたいだ。地球で自分は結婚した事ないけど、何度も友人の結婚式には参加した。細かい工夫や配慮に大変だったと皆言っていた。

 結婚式の準備も半年以上かけて行う物だし、それを二週間の準備期間というのは、確かに無理があるのかもしれない。


「さすがに貴方のような下級貴族では、皇室をおもてなしできる程のティーセットは持っていないでしょう。わたくしがコレクションから貸し出して差し上げますわ。でも他の準備は貴方がしなさい。これも勉強よ」


 毎度ながらリーリア様は厳しい。でもそれも私の勉強のためと思えば仕方が無いかもしれない。


「解りました。自分で考えてみます」


 そう答えて、その後軽い打ち合わせをして自宅に戻った。


「お帰りなさいませ。お嬢様。顔色が悪い様ですが、大丈夫ですか」

「うん。平気よ。ちょっとやる事が多すぎて頭を抱えているだけで。今から色々作業をするから、紅茶を入れて。飲みながら考えるわ」


「かしこまりました。お茶と一緒に軽い食事も用意しますね。最近あまりお食事をなさってない様ですから」

「うん。ありがとう助かるわ」


 それから私はリーリア様に貰った色見本を元に、テーブルセッティングの計画を立てた。テーブルクロスやナプキンの用意は、布屋に頼んで上質な物を選ばなければいけないし、当日飾る花もこの季節にある花で、上品で格式のある花を選ぶ必要があるだろう。

 全体のテーブルクロスはロイヤルブルーが良いかもしれない。統一感がでるし上品で白いティーカップも映える。ナプキンの色は各人のカラーに合わせて、飾る花の色も各人の色を取り入れた方が良いだろうか?

 キースが用意した食事や紅茶を、無意識に流し込みつつ、今後の段取りと計画を考えているうちに、あっという間に深夜になっていた。


「お嬢様。もう夜も遅いですしそろそろお休みになられた方がよろしいのではないでしょうか」

「うーん。もうちょっと作業してからね」


「それはさっきも聞きました。時間がないのはわかりますが、この調子で睡眠時間を削り続けると、茶会の前に体を壊して、本番の茶会に万全な体勢で行う事ができませんよ」


 キースの言う事はもっともで、健康管理は大切なのだが……。


「でも私が仕切る茶会だし、今後の皇室の問題も大きく左右するかもしれない。ジェラルドやラルゴ殿下やソフィア様のためにも頑張りたいんだ」


 キースは真顔でこう答えた。


「召使いの俺がどれだけお嬢様を心配しても、聞く耳はもたないということでしょうか?」

「そ、そんな事はないよ。キースは大切な家族みたいな物だし、キースが私を心配してくれてるのは解っているから。でも中途半端な仕事はしたくなくて……」


 キースは真面目な顔をして、椅子に座る私の手にそっと手を重ねて、その手をとった。そして私の手の甲に、軽く口づけをして、微笑んだ。


「俺もお嬢様が仕事熱心な姿は好きですよ。でもお嬢様が苦しむ姿は見たくないです。お嬢様の事が好きですから。召使いとしてではなく、一人の男として」

「き、キースいきなり何を……」


「召使いのままでは、まともに聞いてもらえなさそうなので。これは旦那様から言うなといわれていたのですが……私の母は旦那様の妹です。つまり俺はお嬢様の従兄弟です。身分でいうなら同じなんですよ」


 え? 初耳なんだけど? キースの発言に私は激しく動揺した。


「聞いてないよそんな事……」


「旦那様の意向でそうしました。俺の両親は早くに亡くなって、叔父である旦那様に引き取られました。その時から旦那様は俺を、将来お嬢様の婿にするつもりだったそうですよ」

「婿! そんな事知らない。だったらなんで、従兄弟のキースを私の従者にしたの?」


「旦那様は従者としてお嬢様の側にいる事で、お嬢様と自然と仲が良くなるようにしたかったそうです。初めから従兄弟で、婚約者だと紹介すると、かえってお嬢様と親しくなれないと思われたそうですよ」


 父の考えを知って酷く動揺していた。キースの好意には気づいていたが、まさか父までキースと私を結婚させようと考えていたとは。

 前世の感覚で自由恋愛で結婚という考えでいたが、この世界の貴族の結婚なら、親の決めた相手と結婚するのが当たり前なのかもしれない。私は呆然とキースの言葉をかみしめて、しばらく混乱していた。


「今すぐに決めろとはいいません。ただ……茶会が終わってロンドヴェルムに帰ったら、俺との事も考えてください」


 私は俯きキースと目も合わさずに答えた。


「わかったから。真面目に考えるよ」


 今の自分にはそう答えるのが精一杯だった。今まで自由にお茶に没頭できたのも、父やキースの理解があってこそだった。でも結婚したらどうなるのだろう。もはやこの世界では結婚適齢期の年齢。いつまでもお茶に没頭しているわけにもいかないのか……。それがとても悲しく思えた。

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