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お茶の準備

 朝目が覚めて見知らぬ天井に違和感を感じた。ぼーっとした頭で「ああ……ここは城の中だった」と認識して起き上がる。

 ラルゴの部屋近くの侍女室の一つが私に与えられた。個室というのは、侍女の中ではかなり贅沢らしいが、専属茶師というのは、以外と侍女内の身分が高いようだ。貴族の底辺とはいえ、一応貴族の令嬢という身分があるという事情も考慮されているのだろう。

 朝食時と、昼食時、午後のティータイム、夕食後のお茶。1日4回茶を飲むのを用意するだけの暇な仕事だ。


 朝起きて身支度を整えたら、厨房に行って、今日の料理や茶菓子の予定を聞く。その料理や時間帯に合わせてお茶を選ぶのも仕事だ。

 朝は目覚めのために濃いめで、逆に夜は睡眠を阻害しないように薄めで。脂っこい食事の時はさっぱりと、甘いお菓子にはミルクティーがよく合うお茶を。

 その日の天候で暑ければアイスティーも作る。氷は贅沢品だが、さすが皇室、自由に使える氷の備蓄はあるようだ。逆に寒い時は、熱めの紅茶で暖めるのも良いだろう。

 それらを考慮し、茶葉の種類を選び、食事が終わるタイミングにあわせて用意する。

 自由な時間は多いが、結構難しい仕事でもある。


 ラルゴの一日は忙しい。皇太子として昼間は責務を行ない。夜は夜会で貴族達との付き合いも多い。また夜会が無い日も、食後のお茶の後、寝酒を飲む習慣があった。ラルゴは茶も好きだったが、酒も好きなようだ。

 私と話す時間が取れるのは、責務の余裕がある日の、午後のティータイムだけだった。

 私は時間の余裕がある時に、ラルゴについて侍女や衛兵達に聞いて回った。一応新人だし、主人の好みや生活スタイルに合わせて、茶を選ぶためと言うと、案外皆協力的に話してくれた。


 皆の話を聞いていくと、意外にラルゴの評判が良い事に驚く。

 仕事には真面目で、そつなくこなしているし、忙しい時は夜も仕事をしている。召使い達にも横柄な態度を取る事も無く、穏やかで慈悲深い、信頼の置ける主人という事だ。

 また些細な気配りも上手で、予定外の来客や、仕事で食事の時間帯が早くなったり、遅くなったりして、厨房の準備が整わない時は、文句を言う事もなく「焦らなくてもいい」とゆったりと待っているらしい。

 かなり舌の肥えた人物だが、普段は簡素な食事でも構わないらしい。忙しい時には昼食や夜食にサンドウィッチをつまむ程度で、すぐに食事を終わらせて仕事もしている。

 もちろん皇太子殿下を、悪くいうわけにもいかないという事情もあるだろうが、それを差し引いても侍女や衛兵達は、ラルゴを主人とする事に誇りを感じていると感じた。


 ついでにジェラルドの事も聞いて見たが、皆遠慮がちにこう答えた。曰く、公務を投げ出して、だらだら遊んでいる。およそ皇族としてふさわしくないと。

 つまり今も何もせずに遊んでる訳だ。頭が痛くなってきた。


 今日は午後の仕事の合間にアイスティーの注文がきた。たまにこういう時間外の注文に答えるのも仕事だ。すっきりとした茶葉を選び、アイスティーを作って執務室に運ぶ。

 仕事をするための机の脇にサイドテーブルを置いて、邪魔にならないようにアイスティーを置く。ラルゴは書類から離れ、一息つくとアイスティーに口をつけた。

 今日は暑かったので喉が渇いたのだろう。すぐにアイスティーが飲み終わった。


「この冷たいお茶というのもよいものだ。茶は熱いうちに飲む物だと思っていた」

「帝都の夏は暑いですから。午後のお茶も冷たい物を用意しましょうか?」


「いや、ゆっくり飲むなら暖かい方がいい。ミルクと砂糖を淹れて飲むのにあうもの。今日は少し疲れたから、甘い物を飲みたい」

「かしこまりました」


 グラスをサイドテーブルに置くと、ラルゴは私の存在を忘れたように、また書類を読み込みはじめた。私はその邪魔をしないように静かにグラスをさげた。

 最初こそラルゴの態度に警戒していたが、私の事をただの侍女としてあつかった。他の侍女と変わらない態度に少々拍子抜けしたくらいだ。

 今の所忙しいため、午後のティータイムに話す時間が取れずにいた。少しじれったいが仕事だから仕方ない。

 私が部屋を出ようとした所、ラルゴが呼び止めた。


「もうじき仕事が一区切りつく。午後のティータイムには少し話も出来るだろう。そのつもりで」


 私はやっときたかと、緊張しつつ茶器を丁寧に扱い、立ち止まって入り口からお辞儀をした。


「ありがとうございます」


 たぶんこの時間をとるために、最近無理に仕事をこなしていたようだ。それだけラルゴにとっても重要な事らしい。それでも忙しい中時間を作ってくれたラルゴに感謝して廊下を歩いた。

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