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日常のお茶

 用意されていたのは、緑茶の茶葉とお湯を沸かすための火鉢とヤカン。それに華奢で優美なティーポット。それらをまずチェックしつつ、ソフィア様の好みはどんなお茶だろうと思った。

 思えばソフィア様と初めて会った時以来、お茶の話をした事がなかった。あの時もソフィア様は熱心な聞き役で自分の好みなどは口にしなかったと思う。

 この家に居候させてもらったお礼に、ソフィア様好みのお茶を淹れてみようと思った。


「ソフィア様はどんなお茶が好みですか?」

「うーん。お茶の銘柄とか全然知らないけど……。私乳製品全般嫌いで甘いお茶も駄目なんだよね。だからお茶には何も入れずにいつも飲んでいるかな」


 なるほど。この国では一般的な、ミルクと砂糖を入れる飲み方はしないという事か。その分ストレートにお茶の味を楽しめて、それはそれで良い飲み方だと思う。


「ではお茶自体にはどんな好みがありますか? 香りや味、渋みとか」

「……そうだなぁ。本当の事言うとお茶ってあんまり好きじゃないんだよね。渋いのや苦いのは苦手で。でも爽やかな香りが心地よいお茶は良いよね。あと胃があんまり良くないから、お茶は飲み過ぎない方がいいって医者に言われてる」


 ソフィア様の話を聞き、それから用意された茶葉を確認する。このお茶でその好みなら……。私はソフィア様が驚く姿を想像してワクワクしながらお茶の準備に取りかかった。

 流れるようにお茶の準備を進める。


「お嬢様!」


 私のお茶をいれる所作にいち早く気づいたのはキースだった。驚いた表情で私のお茶を淹れる手元を見ている。


「お湯をそんなに冷ましてしまったら、お湯の温度が下がりすぎます。それでお茶をいれるのですか?」

「そうよ。これは低温でゆっくり入れるのが良いの」


 私はわざと冷ましてぬるめにしたお湯を茶葉をいれたポットに注いだ。そして本来なら1分ですむ蒸らし時間を、じっくり15分待ってからカップに注いだ。


「さあ、どうぞ召し上がれ」


 ソフィア様に差し出すと、ソフィア様は好奇心で目を輝かせながら、カップを手にとって、まずはゆっくりと香りを楽しんだ。


「爽やかないい香り……」


 そしてゆっくりと一口口にすると、目を見開いて驚いた。


「全然渋くなくて、お湯みたいにとても軽くて爽やかな飲み心地だ。これ……いつものお茶だよね。全然違う」

「お茶の渋みを決める成分は高温で抽出されるので、低温で入れるとあっさりさっぱりとした飲み心地になるんですよ。それにこうやって淹れると胃に悪い成分が少なくて済むのでソフィア様向きだと思いますよ」


 お茶に含まれるタンニンとカフェインは高温なほど抽出されるので、低温で淹れると含有量が少なくなり、小さな子供でも飲みやすくなる。

 ただ味が薄すぎて、お茶好きには物足りないかもしれないが。

 お茶の好みは人それぞれ、お茶の種類も千差万別。どれが良い悪いという事はない。飲む人の好みに合わせ茶葉を選び、入れ方を変え、提供する。飲み手の求めるお茶にできた時の達成感ほど私の好きな物はない。


「気に入っていただけてよかった」


 ソフィア様は本当に美味しそうにゆっくりとお茶を味わいながら、柔らかく微笑んだ。


「マリアはすごいね。お茶の魔法使いみたいだ。私はそれほどお茶好きというわけではなかったけど、これは癖になりそう。これから毎日マリアのお茶が飲めるのは役得だな」


 喜ぶソフィア様の姿を見て気持ちがほっこり暖まる。ああ……自分の淹れたお茶を美味しいと飲んでもらうのはなんて幸せな事だろう。

 思い返すとロンドヴェルムで、キースとジェラルドと三人でお茶してた時が一番幸せだったな……。どうして私はあの幸せで満足できずに、都会に飛び出してしまったのだろうと思わず軽く後悔してしまう。

 でも……私はロンドヴェルムの茶を売って、復興の資金にするんだと決めたのだ。こんな所で後悔なんてしてられない。


「キース。家にあるお茶をこっちに持ってきてもらえる? またブレンドの研究とか、入れ方の練習をしてみたいから」

「かしこまりました。後ほど取りに行きます」


 ソフィア様が幸せそうに微笑みながら、お茶を飲みつつ私に言った。


「退屈しのぎなら色々あるよ。書斎にはかなりの蔵書があるし、家は庭が広くて植木にも凝ってるから、見応えあるし」

「本ってお茶関係の書物もありますか?」


「あるんじゃないかな? うちは代々学者の家系で、研究書のたぐいを集めたり書いたりするのが好きな人間ばかりだからね。ありとあらゆる知識欲がつまって、学院並の充実した書庫だよ」


 読書は好きだし、この世界の茶について勉強できるのは楽しみだ。それに外は天気が良くて庭の散策をしたら気持ちよさそうだ。

 自分でもお茶を飲みつつお菓子を食べて、私はまったりと食後の時間を楽しんでいた。

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