永遠へ続く道
最初に私達の誓いについて、リドニー宰相に話にいった。
「こういう事って、最初に親に話すんじゃないの?」
「結婚じゃないし、親に挨拶なんてしなくてもいいんじゃない? 僕はロンドヴィルムに行くけど。またマリアのお父さんに会いたいしね」
まあ……結婚ではなく、交際宣言なら、わざわざ親の許可なんていらないのかな? それじゃあ、なんでリドニー宰相に言いにいくのかって事だけど、私の護衛に関する事とか、私が世界を飛び回るのに必要な、実利的な相談をした方がいいだろうと。
リドニー宰相は、最初、ジェラルドが一生独身を貫くと宣言して呆れ、私を一生の恋人にすると宣言して理解に苦しみ、腰を抜かしそうな程驚いていた。
「つまり……マリアを殿下の愛妾にする……という事なのかのう」
「愛妾って……その言い方なんか嫌だな。僕は結婚しないから妃もいないし、他に恋人を作る気ないんだけど」
この世界の価値基準で言えば、結婚しないなら愛人? って事だし、特に王族なら、妃とは別に愛人が何人もいてもおかしくないわけで。事実婚より、そちらの方が遥かに理解できる話なんだろうな。
リドニー宰相も、ジェラルドの奇行ぶりに長年頭を悩ませてきたはずなんだけど、今回の話は想定の範囲外すぎて、心がついていかない……という感じで盛大に溜息をつく。眉間をもんで少し考え込んだ後、渋々ながら口を開く。
「最大限好意的に解釈するのなら、それもまた、帝国の為に良い道なのかもしれんのう」
そう言ってあご髭に手をやって、私をちらりと見る。
「少なくとも……殿下の恋人でいる……というのであれば、帝国の一大事にマリアの力を借りる……くらいに当てにはできるじゃろう? 世界的に希少な治癒の魔法を、帝国で独占できるとも言えるのう。殿下の正式な妃でない……というのは、まあ……長い人生、殿下の気が変わった時に好都合……」
そこまで言ってジェラルドに凄い睨まれたので、にこりと笑って口をつぐんだ。つまり……リドニー宰相としては、私を恋人にした所で、ジェラルドが独身のままなら、いずれ気が変わって、別の女性を妃にする日もあるかもしれない……という期待も持ってるのね。
結婚しない、子供も作りません……というのは、後継者をできるだけ残したい、帝国運営的に困った事になるから、できれば結婚させたいんだろう。これはもうジェラルドとリドニー宰相の根比べ。結婚しない! 結婚しろ! って互いにこれからも、喧嘩しつつなんとか上手くやっていくんだろう。
「結婚の事は横に置くとして、殿下が帝国の為に働く事を覚悟されたのは、喜ばしい事ですな。少しはこの老骨の肩の荷も降りたというものですのう」
もはやジェラルドを皇帝に……というのはリドニー宰相も諦めたのだろうか? たぶん……まだ可能性は捨ててないんだろうな。ラルゴの息子もいるけれど、もしもの事があればジェラルドを皇帝にしようと、虎視眈々と狙い続けるのだろう。
なんだかんだで、リドニー宰相はジェラルドが好きなんじゃないだろうか? だから皇帝にさせたがってた。馬鹿な子程可愛いって言うし。
リドニー宰相と相談して、私が作った紅茶の茶葉は、全て帝国の国蔵で厳重に保管し、皇室の許可無しに使用できない。新たに私が紅茶を作るのは、帝国国内のみとし、海外で頼まれても断るという事で決まった。
私の紅茶は帝国が管理するとなれば、帝国の許可無しに、海外の統治者が無理強いしようとすれば、帝国との戦争になる。それが私の魔法を護る為の抑止力だと。
逆に帝国の許可さえあれば他国での治療活動もできるので、外交カードとして美味しいとリドニー宰相は言う。さすが古狸。狡い。
そんな感じで先にリドニー宰相に話して、それから「一応」と、皇帝夫妻にも話した。もはや息子の奇行ぶりに皇后様も卒倒しそうだったけど、今後は真面目に公務に取り組むならもう好きにしなさいって諦めたようだ。
昔に比べてジェラルドに対する皇后様の目が優しい。ラルゴに代わってずっと仕事を頑張ってきたから、その働きぶりを認めてくれたのかもしれない。ジェラルドも嬉しそうだ。
「ジェラルドとマリアが……そうか。どんな形であれ、よかったな」
「ジェラルド、マリア、おめでとう!」
ラルゴはまだ、良く理解できない……と悩まし気に、でも控えめに祝いの言葉を言ってくれた。ソフィアは元から常識破りを気にしない人なので、結婚しなくても好きで一緒にいればいいんじゃない、とあっさり納得。
「ちょっと聞いてくれる……この子に早く名前つけてあげたいんだけど、なんか色々うるさくって」
自分の子供を抱きしめて、唇を突き出し不満げなソフィア。帝国の皇室のしきたりもあって、産まれてからある程度経過して、無事健康に育つと見込まれるまで、名前をつけない慣習だそうだ。本当は早く自分の子供の名前を呼びたいのに……と悔しそう。
ソフィアが拗ねると、ラルゴが頭を撫でながら宥める。そんな二人の姿も微笑ましい。ラルゴはもうだいぶ元気になってきて、自力で歩けるようになった。もう少し様子を見て、少しづつ仕事にも復帰したいと言っている。
「一度死にかけてわかった。俺一人で皇帝にはなれないな。皆の力を借りて、無理をせずに、この子が大きく成長するまでの間、なんとか乗り切ろうと思う。だから……ジェラルドの力も当てにしてるぞ」
以前はライバルとしてジェラルドに対抗意識を持っていたけれど、ラルゴも色々あってずっと落ち着いた気持ちになれたのだろう。兄弟が仲良くこれからも付合っていけるならよかった。
父に手紙で連絡し、落ち着いたらジェラルドと二人で挨拶に行くと告げた。父からの返事は無かったけど、キースからの手紙に『一生孫の顔を見られないと知って、ショックが大きすぎて寝込んだ』と書かれていた。う……ん、それについては、親不孝で申し訳ないな。
キースは怒るかと思ったけど、私が夢を諦めずに、やりたい仕事を続けられるなら応援すると言ってくれた。キースももう諦めた様で、そろそろ次期領主として結婚しないといけないだろうか……と、手紙の最後で愚痴を零した。
その後お披露目という事で、晩餐会にて公式にジェラルドが「一生独身宣言」と「一生恋人宣言」を行って、貴族の度肝を抜いた。ほとんどの者が理解できなかった。それでも今まで下級貴族の娘なら、力づくで言う事を聞かせて、治癒の力を当てにできないかと思ってた存在には、抑止力になったようだ。
晩餐会の後、帝国貴族達が前代未聞の発表に慌ててるうちに、ひっそりリドニー宰相が根回しをして、私の魔法の扱いを法律として規定し、世界に向けて発表してしまった。この発表に海外からの私への、治療の問い合わせもぴたっと止まる。治療を望むなら、私ではなく帝国に問い合わせろ……そういう無言の圧力だ。
皇室のしきたりに、一番精通してるはずのアラックも、前代未聞だと、頭を悩ませ、困りに困って、私に「公爵夫人」という肩書きを与えたらどうかと提案してくれた。
私は独身なのに「夫人」っていうのも変な感じだけど、独身女性の公的な身分というのは、今まで存在しなくて、既婚女性が夫の力を借りつつ、何か仕事をした記録があり、その時はそういう肩書きで呼んでいた……という事らしい。
公爵夫人という肩書きを貰っても、あくまで名前だけで、領地も何もないし、父の身分も据え置きなんだけどね。一応……公爵夫人に対して、国の予算から一部を与え、それで護衛をつける費用を賄うのだとか。
マルシアが護衛達の取り纏めになると言ってくれた。今までの仕事ぶりを見てるだけで安心できるし、とても頼もしい。
公的には結局、ジェラルド殿下の恋人のマリア公爵夫人……と、なるのだけど、そんな肩書きで呼ぶのは帝国貴族の一部くらい。
世界中の多くの人々は、私の事を「茶師の姫君」と呼ぶ。




