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覚悟の刻5

 目覚めた時、私はベットの中だった。すぐに飛び起きると慌てたようにマルシアが駆け寄る。


「お目覚めになったのですね。急に倒れられて……」

「私の事は大丈夫。それより、ジェラルドと、ラルゴ様はどうなったの」


 マルシアが私の勢いに気をされるように、慌てて言葉を紡いだ。


「両殿下とも峠を超え、無事快方に向かっていると医師が言ってました。奇跡的な回復だと驚くくらいに」


 よかった……と、心底安堵する。二人が無事ならそれで良い。そう思ったらまた眠くなってベットに倒れ込む。昨日は徹夜だったし、最近忙しかったし、緊張の糸が緩んで疲れがでたんだろうか……そう思いながら眠りに落ちていった。

 私はその後丸2日寝てたらしい。どうして急にこんなに疲れたんだろう……と思ったのだけど、私の魔法に興味を持った学者が尋ねてきて言った。


「魔法というのはどんな物も、多かれ少なかれ、術者に負担をかけるものです。恐らく……一度に大量の治療行為を行った反動が疲れに繋がったのでは?」


 なるほど……あんなに一度に沢山、自分の茶を入れたのは初めてだったから、わからなかったが、お茶を淹れる事で私自身にも疲れが蓄積するのか。それから学者は私に色々質問しながら、私のお茶を飲んだ人達の回復状況を調べ、能力を分析すると言った。

 私も自分の力について、もっと知る必要があると思ったので、それに協力した。

 色々調べてわかったのは、どうやら私の魔法は、飲んだ人間の自己回復力を高めるものらしい。だから元々体力がある健康な人なら一気に回復できるけど、弱り切った人には時間をかけて飲ませ続けて自己回復力をつけるしかないようだ。

 それに、紅茶の濃度、飲む量でも効果が変わって、濃いお茶を沢山飲むと、より効果は高いらしい。

 ラルゴの治療にがあれだけ時間がかかったのも、病人だからと薄く入れてたせいもあるかもしれない。しかも茶を飲む事を中断して、容態急変したのは、ラルゴの自己回復能力が落ちすぎてたからなんだな。気をつけて今後は早めに飲ませる事にしよう。



 そうやって過ごす間に、色々と事態は進んでいた。爆発物をしかけた犯人は全て拘束されたが、帝国側の人間が引き起こした事件で王国の関係者が負傷した。その事に王国側が怒って和平交渉を白紙にという声があがったのだ。

 なんとかアルビナ外相が「私が無事だったのは、ジェラルド殿下が命がけで助けてくれたからだ」と訴えて、王国側の人間を宥めている。それでもこの場にいる王国の使節団を納得させられても、王国国内に残った政治家達まで納得させられない。

 アルビナ外相は急ぎ国に戻り、今回の事件について報告し、帝国との戦争回避に向け全力を注ぐ……そう言った。

 急いで帰り支度を整えるアルビナ外相に、私は呼び出され尋ねて行った。流石に疲労の残る顔に、力のない笑みを浮かべている。


「とんでもない事が色々あったわね……おかげでまた、面倒な仕事が始まりそうだわ」

「国に戻られてから、アルビナ外相はまた戦われるのですね」

「そうね……マリア、貴方も大変な事になるんじゃないかしら? まさかあんな治癒の術を持っていたなんて……世界中大騒ぎになるかもしれないわね」


 すでに私の魔法の話はアルブム中に広がってるし、王国の使節団を通じて、王国にも報告が行っている。さらに諸外国に噂が広がって行くだろう。……もう、自由に紅茶を作る為に、世界を飛び回る事なんてできないかもしれない。ぎゅっと唇を噛み締めて、その事実に耐えた。

 アルビナ外相は優しく微笑んで私の手をとった。


「治癒の術は凄いけれど……あなたの茶にかける情熱も、才能も、かけがえの無い力よ。それを腐らせるのはもったいないわ。私で力になれる事があれば協力するから、夢は諦めないでね」


 アルビナ外相の優しさに、思わず泣きそうになってぐっと堪える。


「国に帰れば交戦派と和平派で、また争いが起こるでしょうね……でもどうにか和平への道へ進むように導くつもりよ。それには帝国ともっと理解しあわなければいけない。互いに人を送り合い、絆を深めなければいけない」


 でもね……と言ってから、明るく笑った。


「男って自分の国では大いばりなのに、命を狙われるような国に怖くて外交で出かけられない……って尻込みするわ。きっと。情けないわね。だから……そう遠くない先に、また私が帝国に来て、今回失われた両国の絆を深めて行くわ。また会いましょう、マリア。その時またお茶を飲ませてね」

「はい。私もいずれ王国に行って紅茶を広めたいです。その時は一番にアルビナ外相にお茶を入れに行きます」


 最後まで私に笑顔を見せながら、アルビナ外相が国へ帰って行った。男だから、女だからって関係無しに、ここまで勇気と胆力を持って、政治家として働けるのはアルビナ外相の実力と覚悟の力だと思う。

 私も……そんな強い人になりたい。


 それからしばらく、私はリドニー宰相の保護下にいた。私の自由を奪う為ではなく、守る為に。私の魔法を手に入れようと、色々手を出してくる人間がいるといけないから、リドニー宰相が睨みを効かせて、守ってもらっているのだ。

 でも……それが通じるのもアルブムの城の中だけ。それも長い間続かない。既に私の力をどう使うか……と、貴族の間で大騒ぎだ。

 ラルゴもジェラルドも急激に容態を回復した。ラルゴはそれでも長期間寝込んでいた事もあって、体力の回復とリハビリに時間がかかるようだ。ジェラルドはもう日常生活を普通におくれるようになっていた。


 私はマルシアの部下に頼んで、ジェラルドへ招待状を届けて貰った。『マリアとジェラルドのお茶会』そう簡単に書かれた、お茶会への招待状。二人でお茶をするなんて当たり前の事で、こんな改まった招待状なんて、送った事も無いけれど。

 でも……こんな風に祝いたかったのだ。二人がお茶会をするのは当たり前なんじゃなくて、とても幸せな事なのだと気づいたから。平和への感謝と祈りを混めて。

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