次世代の為に2
翌日、第2回の昼食会が行われた。新皇子誕生で国中がお祝いムードなせいもあって、空気が柔らかい。リドニー宰相もアルビナ外相も、子供が産まれたからといって、浮かれて仕事に支障をきたすような人達ではないけど……うん、まあ、ジェラルドってわかりやすいよね。
仕事中は真面目な顔を作ってる事が多いのに、今日はすっごく機嫌良さそうな笑顔を隠しきれてない。今までとは大違いの様子に、アルビナ外相も思わず笑みがこぼれる。
「ジェラルド殿下。改めまして、新皇子誕生のお祝いを、ラルゴ殿下と妃殿下にお伝え願えませんか?」
「はい、もちろんです」
思わず頭を撫でたくなる程、良いお返事。
本当は王国と帝国の外交についての相談のはずが、子供の話が弾みすぎて話が進まない。でも……ジェラルドと一緒にこうして幸せを語り合えたなら、ジェラルドにもアルビナ外相の人柄は伝わるし、それで王国への怒りが少しでも和らぐなら、外交としては成功なのかもしれない。
リドニー宰相のような、如才なく搦め手で……腹黒で……というタイプではなく、アルビナ外相は表向きは笑顔と誠意を持って人に好印象を与えながら、話を進めていく人なんだな。
もちろん国の為に都合が悪い事は口をつぐむだろうけど、平和外交を進める為の代表なら、まず信用されそうな人物を送り込む。その為のアルビナ外相なんだな……って改めて思った。
でも……ちょっとジェラルドが緩みすぎな気がしたので、昼食会が終わった後、こっそり叱りに行った。
「だって……マリア。兄上の子も、ソフィアも無事だったんだよ。兄上も元気になれば国は安泰。僕はお役御免じゃん」
「自分がさぼれるから嬉しいの」
むすっと怒ったら慌てたように言った。
「違うよ。本当に嬉しいんだ。さっき初めて赤ちゃんを見てきたけど、甥っ子は可愛いね。産まれる前は、今回の外交交渉、嫌になったら仕事放り出して逃げちゃおうかな……って気持ちがまだあったけど、あの子を見たら、逃げられないな……って覚悟した。今回の外交の仕事頑張るよ。平和な国をあの子に譲り渡してあげたいもんね」
仕事したくない……が口癖のジェラルドにこんな事を言わせるとは……赤ん坊パワーは凄い。
その夜アフターディナーティー。もはや私と二人きりが当たり前になった夜のお茶会。アルビナ外相は二人きりになった途端、堪えられないという感じで声をあげて笑い始めた。
「貴方と殿下の会話……実は聞いちゃったの」
「え! あれをですか?」
「貴方が人柄の説明に困ったのが、よくわかったわ。お役御免……なんて自分から言って……」
笑いすぎて苦しいという感じで、お腹を押さえてる。もう国の恥だ、ジェラルド。アルビナ外相が笑ってくれてるのが救いだけど、怒られて、呆れられても仕方が無い。
「マリア……面白い事を思いついちゃったわ。協力してくれない?」
「なんですか? 私にできる事なら」
「他の人に内緒で殿下とお話してみたいの。こっそり遊びに行く機会を作ってもらえないかしら? 私の方のスケジュールをわざと空けておくから、その時間にどこかで待ち合わせて、内緒でお出かけしましょ」
すごく茶目っ気あふれる笑顔で、楽しそうにイタズラを語るアルビナ外相は、見た目可愛いらしいオバサマだけど、ジェラルドみたいに中身は子供じゃなくて、絶対何か裏があるよね。
「こっそり遊びに行くって……どこに行くんですか?」
「内緒。そうね……当日は、私と殿下とマリアと護衛のマルシアの4人だけね」
「そんな……たった4人で大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。危ない所にはいかないし、護衛が一人と……殿下は風魔法の使い手って有名よね。護身術もあるんじゃないかしら?」
何か裏があるんじゃないかな……と、思いつつ、裏があったとしても、アルビナ外相が悪意を持って何かするとは考えられなくて、わかりましたと返事をする。
ジェラルドは反発するかと思ったけど、意外と「何それ楽しそう。公務逃げ出して遊びに行く。リドニーが慌てるだろうな……楽しみだ」なんて乗り気で驚く。
赤ちゃんの話で盛り上がったのもあるかもしれない。ジェラルドはちょっと機嫌がよさそうだ。
「マリアがアルビナ外相の話をする時、とても楽しそうなんだよね。だから良い人なんだな……というのは伝わってくるから信じるよ。それに……王国の人間だからってひとくくりにしないで、アルビナ外相個人がどんな人なのか興味があるんだ」
アルビナ外相は私からジェラルドの話を聞いて、ジェラルドは私からアルビナ外相の話を聞いて、私というフィルターを通じていつの間にか親しくなってる不思議。これもまさかのアルビナ外相の外交術だったり?
ジェラルドはいつでも仕事をさぼって、文字通り飛んで行くというので、賓客として始終人に見られるアルビナ外相のスケジュールを空ける方が難しいんじゃ……と一緒に考える。
「ソフィア妃殿下のお見舞いに行く……予定が道に迷ったとかどう?」
「どうやって道に迷うんですか?」
「産後の女性を大勢で見舞いに行くのは失礼だから、マリアとマルシアだけに案内してもらって……その途中でとかね。城の中で、護衛もいるとなれば意外に自由になれない?」
普段は常識的な方に見えるんだけど、結構無茶苦茶な人だな……と、びっくり。そしてそんな無茶が案外上手く行ってさらにびっくり。
上手い事取り巻きを巻いて、ジェラルドと無事合流。さて4人でどこに行くのか……。その行き先を知ってるのはアルビナ外相だけだった。




