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すれ違う国と想い2

 今日も朝食に合わせてモーニングティーを入れる。最近は少し安心できるようになったのか、アルビナ外相は以前より良く食べてるな。ぽっちゃりした体型だし、結構食べる事が好きな人なのかもしれない。私が入れるお茶の細かな変化も敏感に気づいて感想をくれるし、舌の肥えた人だ。

 いつものようにアルビナ外相の小間使いが、マーマレードを用意して持ってくる。あれ? いつもと同じ人なのに、ちょっと様子が違うような……気になって持ってきたマーマレードを見る。アルビナ外相もそれを手に取ろうとして気がついたようだ。瓶のラベルの貼り方が不自然だ。私はとっさにそのマーマレードの小瓶を取り上げて言った。


「アルビナ外相。たまには他の味も試していただけませんか? 我が国の料理人が、せっかくアルビナ外相の為に用意したジャムを召し上がっていただけないのは、残念だと申しておりましたので」

「あら……そうね。せっかく用意してくださったのなら、一度は食べてみようかしら?」


 まるで不自然さのない会話。アラックだけ感づいたようで、すぐに厨房にジャムの手配をする。他の人は何も疑問に思わず、何も問題は起きずに朝食は終わった。

 後でアラックに頼んで、マーマレードの中身を確認してもらった。やはり……毒が含まれていたと。小瓶一つでも致死量に達していた。ラベルは似たような物に張り替えられていたし、たぶん事前に用意されていたのだろう。こんな事、帝国の人間には不可能だ。


 深夜のお茶会。アルビナ外相にお礼を言われた。


「今日は助かったわ。私もおかしいと思ったけど、あの場で何か私が言えば、あの小間使いの子が処罰されるでしょう? あの子……昔から良く私に使えてくれた、とても良い子なの」

「その信頼できる小間使いが、毒殺しようとしたのですか?」

「たぶん……誰か大切な人を人質に脅されてたんじゃないかしら? 後で明日からの身の回りの世話を、別の人に変えてもらったわ。不自然でない程度に、不規則に毎日人を入れ替えて……」


 毒殺未遂でも騒ぎが起こった時に、それが王国の人間によるのか、帝国の人間によるのか……判明しないと疑心暗鬼で、平和外交も上手く行かなくなる。だからできるだけ穏便に問題を処理したい……そうアルビナ外相は言った。


「今日の事で、外交使節団の中に、私の命を狙っている人がいるのは確実になったわ。早く見つけて排除しないといけないわよね」


 夜食の砂糖菓子を摘みながら、ブランデー入りの紅茶を一口飲んでにっこり。いつもと変わらぬ貴婦人ぶりで、恐ろしい事を言ってのける。自分が命を狙われているっていうのに、随分剛胆な人だ。


「アルビナ外相は凄いですね。命を狙われているのがわかっているのに、まったく動揺を見せないなんて」


 アルビナ外相はカップをテーブルに置いて、私の目を見て穏やかに微笑んだ。


「マリア……私は貴方に会えてよかったわ。帝国の人間に、一人でも信頼できる人がいる。そう思えたならそれだけで安心できるもの」


 アルビナ外相にそれだけ信頼してもらえて嬉しい。どうやら事前にリドニー宰相から「茶師の姫君」がお茶係になると連絡が行ってて、それで私の事もかなり調べていたようだ。私の通り名は既に他国にも広がっていたから調べるのはそう難しくなかったと。

 私は帝国の皇室と親しくした過去はあったけど、ここ7年、帝国とも距離を置いていたし、王国にはコネの一つもない。それだけ両国にしがらみの無い人間だというのも、安心できる要素の一つだったようだ。

 今まで一緒に仕事をしてきて、アラックは信用のおける人だと思う。例え脅されたとしても、脅しに屈しない強さを持った人だろう。それでも……念には念を。私ができる限りアルビナ外相を守ろう。そう思った。


 その後数日、やはりアルビナ外相も警戒した様で、人前での食事の量が減った。その分私は夜食を多く用意してもらうようにした。毒の混入がないように厨房で作る所から見守り、自分の手で持っていき、アルビナ外相の目の前で毒味して。


「食べるもの食べないと、元気もでないし、仕事も捗らないから助かるわ」


 アルビナ外相は喜んで夜食をもりもり食べる。日中よりずっとリラックスした雰囲気でほっとする。少しは私も役にたてたようだ。

 しばらく警戒してた間に、この前の毒殺未遂の調査は終わったようだ。黒幕は特定できず、トカゲの尻尾切りのように、小間使いに毒入りの小瓶を運ぶように命じた人間を捕まえられただけ……だそうだけど。


「見せしめでも処罰できたし、少しは大人しくなるんじゃないかしら?」


 何でも無い事のようにアルビナ外相は笑うけど、まだ黒幕がいる限り暗殺事件は起こるだろう。

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