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もてなしの心2

 朝食の後、11時のイレブンジィズまで、アルビナ外相は仕事中。この合間の時間を使ってラルゴにお茶を入れに行った。

 ずっと寝込んでいた為に弱った足腰のリハビリだといって、壁に手をついて歩く練習をしている。まだ立ってるだけでふらつきそうな足取りだが、それでも自力で歩く練習ができる程、回復してきたのはよかった。

 この分なら、そろそろ私のお茶がなくても大丈夫なんじゃないかと思った。


「マリアはアルビナ外相の茶師としての仕事があるらしいな」

「そうですね」

「忙しいだろう。俺の所に毎日来なくてもいいぞ。マリアのお茶は美味いが、仕事の邪魔をするような我儘は言いたくない」


 私のお茶が薬だとラルゴは知らないからそんな風にいうのだろう。私はちょっと躊躇ったけど、確かにアルビナ外相の対応で忙しいし、ラルゴも元気になってきたし、お言葉に甘えてしばらくラルゴのお茶入れは休ませてもらう事にした。


 イレブンジィズは仕事の合間の短い休憩タイムに飲むお茶だ。一日で一番カジュアルで、手軽さと素早さが要求される。

 私はカンネの緑茶に、ミント系のハーブの葉1枚と、柑橘類のスライスを1枚浮かべ、クリアなアイスティーを作った。カンネの緑茶の爽やかな香りを損ねない程度に、ハーブと柑橘類を控えめに添える。

 厨房から金属製の器に入れて持って行くと、仕事中のアルビナ外相の顔がぱっと華やぐ。


「あら……可愛らしい飾りつきね」

「少しさっぱりとした方が、お疲れの時にはよいかと思いまして」


 一口飲んで柔らかく微笑む。


「爽やかな香り。冷たいお茶って初めてだけど、時間のない時にさっと飲むには、これも良いかもしれないわね」

「朝食のジャムが、果実のフレッシュな香りが効いていたので、柑橘類の香りがお好みでしょうか?」

「あら……よくわかったわね。柑橘類もブランデーも好きよ。夜のお茶は、ブランデーに合う物にしてくれるかしら?」

「かしこまりました」


 アイスティーを美味しいと喜んでくれた。でも明日からは普通に温かいお茶でいいと言われる。基本的に穏やかで笑顔の人だと、イマイチ気に入ったのか、気に入らなかったのかよくわからない。美味しいって言ったのに、本当はアイスティー気に入らなかったのかな?

 アルビナ外相は素早くティータイムを終えるとすぐに仕事に戻る。ちらりと見たアルビナ外相の仕事中の真剣な顔は、甘さのないシビアな目で、優しいだけの貴婦人ではないオーラを感じた。


 この後は……3時のアフタヌーンティーか。1日6回のお茶の中で、もっとも重要でゴージャスなお茶の時間。夕食以上の格式や伝統を要求される細やかな配慮は、とても私の手に負える物ではない。

 テーブルセッティングや、クロスと食器の選び方、全てに細やかなセンスを要求されるのでアラックにお任せした。ただ、花の用意だけ一つお願いしたけれど。

 基本的に花は帝国名産の華やかな花なのだけど、一輪だけ、王国でポピュラーな青い花を飾ってもらったのだ。帝国では珍しい花だけど、ソフィアの実家の植物園にあったので、頂いてきた。外国に来て故郷の花を見かけたら、ほっとするかもしれないと思って。

 アラックはそれならその青の花を引き立たせる方が良いと、用意する食器類もシルバーと白と暖色系に纏め、他の花も明るい色にし、青い花一輪が際立つように仕上げた。見事にバランスの整れた美しさに思わず唸る。

 今日は天気がいいから、庭が綺麗に見える、風通しの良い場所に椅子をセットして、アルビナ外相を待った。部屋に入ってきてゆっくりと見渡し、青い花に目を留めて、柔らかく微笑む。


「一輪だけというのが、素敵な趣向ね」


 お褒めの言葉をいただいた。どうやらだいぶお気に召して頂けたようだ。三段重ねのプレートには、一口サイズの菓子やサンドイッチが並んでいる。でも……三段重ねのプレートに手もつけず、スコーンにお気に入りのマーマレードを乗せて食べている。元々余る程用意された食事だけど……一口も手を付けない程、お腹空いてなかったのかな?

 私もアルビナ外相の表情を見ながらお茶をいれた。お茶は最初はロンドヴィルム産の紅茶をストレートで、後からミルクティー。


「あら……赤い色が綺麗ね。面白いわ。香りも他のお茶と違って良い香り」


 普段緑茶はミルクを入れない派らしいが、紅茶にミルクは合うと喜んでもらえた。王国の料理は、地球の伝統的な英国スタイルに近いので、紅茶は合うだろうし、スコーンにミルクティーは鉄板だ。


「明日からもアフタヌーンティーにはミルクティーが飲みたいわ」

「かしこまりました」


 それから私だけでなく、後ろにいたアラックにも目を向けて微笑む。


「今日はとても素敵な趣向をありがとう。でも、明日からはもっと質素でいいわ。今日はのんびりできるけど、明日からは忙しくなるし、せっかく用意していただいても、眺める余裕がないともったいないでしょう?」


 アラックは眉一つ動かさずに、美しい所作でお辞儀した。こちらの仕事ぶりは認めつつ、それでも合理的に無駄は排除する……細やかな気配りのできる人だな。

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