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複雑怪奇な仕事の事情2

 アラックから届く、ザクソン王国についての資料を確認しつつ溜息が漏れる。私は政治家じゃないのに、どうしてこんなに国家間問題に頭を悩ませなきゃいけないのか。

 ザクソン王国……なんて名前がついてるけど、王家は国の象徴というだけで、実質権力は貴族院の議会政治にあるらしい。貴族しか議員になれない……という事を除けば以外と民主的な国だな。

 ザクソン王国内部でも、帝国との和平派と交戦派、二つの勢力に別れてて、昔は交戦派の方が強かったけど、ここ数年で一気に和平派が力をつけて、帝国との関係改善に動いてる。今回の外交会談はその最初の一歩らしい。


「マリア様……お客様がいらっしゃってるのですが……」


 マルシアが、珍しく困惑した顔をして……誰だろう? 問題がある人をマルシアが通すとも思えないし、どうぞ……と言いながら扉を見てびっくり。


「お久しぶりですな。茶師の姫君……マリア・オズウェルド」


 ひょうひょうとした笑みを浮かべ、案内もされずに勝手に入ってきて座る古狸。な、なんでいきなりリドニー宰相が来るの! ジェラルド以上に忙しいはずなのに。

 私が驚く姿を見て楽しそうに笑う。


「お忙しい所わざわざお越し頂きまして……どのようなご用件でしょうか?」

「ザクソン王国の賓客を茶で持て成す仕事の件、聞いておるじゃろう? それについてちょっと話があってのう」


 その顔に笑みを浮かべたまま、眼光だけ鋭く私を見据える。仕事の話だというのなら、心して聞かないと。人に使いをやらずにわざわざ来る程重要な事なのだ。


「賓客を持て成す段取りについては聞いておるか?」

「は、はい……。まだ、賓客がいらした時と、帰られる前の2回、夜に晩餐会を。外交会談としての昼食会が何回か。後は水面下での交渉になるから、日常のお茶を……と、だけですが」


 リドニー宰相はあご髭を撫でて笑みを消し、ひそりと話しかけた。


「ザクソン王国から来る賓客はまだ決まって無い。だが……おそらく和平派最大権力者の懐刀、アルビナ外相が来るだろうのう」


 アルビナ……という名前の響きが、女性的に感じられる。女性の政治家? 懐刀と呼ばれる程の実力者が? と戸惑う。


「もし……そんな和平派の重鎮が、帝国内で命を脅かされるような事があれば……どうなると思う?」


 そう言われてぞっとした。外交交渉を妨害する為の暗殺……それはおおいにあり得る事だ。


「帝国内に、そういう動きがあるという事ですか?」

「帝国内だけとは限らん。ザクソン王国内部の交戦派も、和平派の実力者を潰して、それを口実に交戦へと世論を持っていきたいじゃろうな」


 内憂外患。帝国と王国の和平を望む物と、反対するもの。その攻防はすでに始まっているのだ。


「暗殺を狙う方法はいくらでもあるが、その一つとして毒殺もあるじゃろう。外相が滞在期間中、もっとも口にする回数が多い物は茶だ。最低でもその茶を出す人間は、信用のおける者をおきたい。それでそなたを選んだのじゃ」


 リドニー宰相の言葉に思わず溜息がこぼれる。やっと事態が飲み込めてきた。恐らく……宰相もまだ、暗殺を計画する者を正確に把握してない。誰が敵で誰が味方かわからない。だからそんなしがらみのない私を選び、人伝手でなく、自ら説明に来た。

 下手な人選では、宮内省が納得しない。皇室茶会で名をあげ、今や国内外でも評判の茶師の姫君なら、国賓を持て成す役目を与えても、周囲が納得するだろうという配慮もあったようだ。


「できるだけ外相の身近にいて、怪しい動きをする者がいないか、目を配って欲しい。よろしく頼むぞ」


 そう言ってリドニー宰相は帰って行った。怪しい動き……なんて言われても、お茶以外に何も知らない私にそんな事できない。そう思うのだけど、国と国が戦争するか否かの重要な局面。できないなんて言ってられないな。


 国が違えば、文化も違う。ザクソン王国のお茶文化ってどうなってるんだろう……と、調べてそのややこしさに頭を抱えた。

 朝、ベットに入ったまま飲むアーリーモーニングティー。朝食と一緒に飲むブレックファストティー。午前中の仕事の合間の休憩イレブンジィズ。午後遅めの昼食と共にアフタヌーンティー。夕食の食前・食事中に飲むハイティー。夕食後の寛ぎ時間のアフターディナーティー。

 一日六回も飲むの! と驚きだ。確かに……これでは滞在期間中に相当な回数お茶を口にする事になる。ここに暗殺者がいたらとても危険だ。それに……朝、昼、夜。全ての食事に茶がついてくる。食事の時に茶を提供しながら食事にも目配りはできるだろう。

 一日六回のお茶の時間、それぞれどんなお茶が相応しいのか、お茶と共に何を出すのか……色々細かい決まりもあるし、さらに晩餐会や昼食会はまた別で、さらに持て成す賓客の好みもあるだろう。本当に厄介な仕事だな……と思いつつ、困難だからこそのやりがいも感じた。

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