#37
「どこか遊びに行きたい!」
「……俺と?」
琥珀は、獅音が自分と遊びたいと思っていることに驚いてしまった――が、それ以上に、自分自身が誰かと遊ぶということを受け入れていることに驚いた。
――今日の昼食とかこの前から色々やってもらってばかりだし……流石に行かないわけにはいかないよな。
やってもらってばかりだから行くだけ……でも、義文さんたちにはなんて言おう。
琥珀は、いくつか義文たちに言われるであろう言葉を考えながら、一日家を空けることの理由を探していた。
だが、考えれば考えるほど、理由などあまり深く気にしていないだろう――と
結局、勉強をやりに行くと伝えることが、何も言われることのない、一番いい理由になりそうだった。
「どこ行こっかなぁ~!水族館、動物園、……プラネタリウムとか大人っぽくていいよね!映画館……だといっぱい話せない」
「何か、それって遊びに行くっていうより……。」
――デート……みたいじゃん。学生の遊びってこういうのが定番なのか?
「ん?何か言っ……あ!」
「んだよ、忙しいな。」
「動物園とかだったら、お弁当作ってピクニック気分も味わえるじゃ――」
「それがいい」
お弁当という言葉に反射して、琥珀は瞬時にこたえた。
「お!なんだ、琥珀も乗り気じゃん!よかった、僕だけかと思ってた」
――あ、僕……。どうしてか、久しぶりに聞いた感じする。でも――。
突然の”僕”呼びに、いつもの獅音を感じ、琥珀は安心感を抱いた。
だが、そんなことに気づかない獅音は、よかった~と安心しきった柔らかい声を出しながら笑っている。
なぜかその様子を見て、琥珀は少し恥ずかしさを抱いた。
「じゃあ、動物園か水族館のどちらかでいい?っていうか、動物怖いとか、アレルギーとかって大丈夫?」
「うん。動物好き」
「お……そか。動物園か、水族館……どっちの方がいいかな、迷う~!」
ふと琥珀の脳裏に、一枚の写真に収められたような過去の記憶を映した画像がよぎる。
「……イヌさん。」
「犬?……じゃ、動物園にしよっか!」
「え、何で」
「だって琥珀、なんか行きたそうな顔してるんだもん!じゃ、テストある週の土曜日とかどう?バイトある?」
「テスト週は、いつもバイト休んでるけど……だからって。てか別にそんな顔してないし。それに、それだと藤田のご褒美にならないじゃん。」
「何で!?琥珀の行きたい場所に行けるなら、それが最高なご褒美だよ」
「ハァ……俺のこと好きなの?藤田が。それでもいいならいいんだけどさ、普段みたいに無理してないか――」
珍しく冗談を言いたくなったはずが、言いきる途中で琥珀は、獅音と目が合い言葉をやめてしまった。
2人の間に凪のような静けさが流れる。
だが、2人は、目を離すことができなかった。
時計の針の音が、琥珀の鼓膜に触れる。
「な、なんだよ。」
「い、や……別に……何でもない!……し、無理してない!動物園行きたい!」
また心の位置がくっきりと分かったような、どこか苦しさも感じられるような現象に陥る。
普段なら分からない。最近のこの現象。
――顔、赤。んで、そんな赤いんだ……よ。
自分の目の前で顔を赤くする彼を見たせいか、いつも以上に苦しさが増す。
――びょ、病気なのか……俺。
琥珀の脳は、まだこの現象に名前を付けることが難しかった。




