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#33

「手、止まってる。どっか分からない問題あるの?」

「あっと、いや……うん。えっと、ここ。和訳ができなくて……あ、でもいいよ!ほら、琥珀も自分の勉強があるし」

「見して。」


――こいつ、普段授業中とか色んな人に教える側じゃなかったけ。テスト前日とかよくいろんな人にノート見せてるイメージあったけど……頭いいと思ってた。


「あぁ、ここは関係代名詞が省略されてるから――」


そう言いながら、琥珀は無意識に獅音のシャーペンを指さし代わりにしながら説明を始めた。

分からないと言っても、そんな自分を受け入れて、普通に教えてくる琥珀に、獅音はどこかじんわりと温まるような嬉しさを感じていた。


”獅音、1人でなんでもこなせるようになって、母さんを安心させて。ほら、大丈夫よね?獅音なら1人でできるよね?じゃ、母さん仕事行かなくちゃいけないから、獅音のこと構ってる暇ないのよ”


小さい頃、母さんを見れば勝手に脳で再生されてしまうほど、幾度となく耳にした言葉。

僕は、1人でやらなきゃいけない。自分で頑張らなきゃいけない。

そう小さいながらに学んだ。


”ごめんね、獅音。父さんも仕事ばかりで獅音に頼りきりだ。でも、獅音のおかげで、すごい助かってる。いつもありがとうな”

僕が1人で頑張れば、感謝される。誰の邪魔をすることなく、瞬時に自分の立ち位置を考え、ただ黙々とその役割を徹していればいい。


1人でこなすことが自分にとって最善の方法だった。

人に頼る方法なんて知らない、1人でこなさなければただ相手に幻滅されるだけ。

それなのに……。


「おい、ちゃんと聞いてる?」

「え!?あ、うん!聞いてた、聞いてた!ごめんね、分からないとか言っちゃって……迷惑かけちゃってるよね」


自分が作ってしまったこの雰囲気をどうにかしたくて、少し微笑んでみる。

それを見た琥珀は、少しため息をついた。


――幻滅……された?


瞬時に琥珀の顔を覗く。

幻滅されたような冷たい顔はしていなかった――が、どこか切ない顔をしていた。

だが、なぜ琥珀がそんな顔をしているのか、獅音は分からなかった。


「なんで――」

「いや、別にいいけど。分からないことがあるなんて別に良くね。それにせっかく勉強会してんだから、お互い助け合わないで個々でやってどうするんだよ。分かんないのにひとりでずっと考えるなら、俺ここにいる意味なくない?って……ごめん。なんか話そうとしてたよな。なに?」


獅音は、大きなため息を吐きかけるが心にとどめておくことにした。

その代わりか、心拍数が早くなる。

一拍、一拍打つごとに淡いピンク色の小さなシャボン玉が生まれるような感覚に陥る。



「なんで――」


心拍数がうるさいせいか、それとも幻滅されなかったことへ嬉しさで気持ちが昂るからか、上手く言葉にできない。

獅音は、思わずあたりを見回す。

すると、獅音の視界に壁にかかった時計が目に映った。


「あ、いや。ほら!もうお昼近いし、お昼ご飯の準備してくるね!」

「お、おう……。」


獅音は、何かから逃げるかのように急いで席を立ちあがり、キッチンへと向かう。


――そんなに、お腹空いてたんか。ていうか、何でそんな顔赤いんだ?別にお腹が空くことなんて恥ずかしいことじゃないだろ、どんだけ周り気にしてんだ、こいつ。それに、気づかなかったけど、もうお昼の時間だったのか……思った以上に、集中して取り組めたな。


「そういえば、今日って他にご家族いんの?」

「え、いないよ……なになに、幽霊とかってパターン?やめて、そういうの。」

「いや、そっか。」


――じゃあ何で、家帰ってきてからずっと()呼びなんだ?まぁ、気にすることでもないのか。てか、真面目な顔で幽霊拒否るとか、絶対苦手じゃん。


そう思いながら、琥珀はキリのいいところまで終わらせようと問題の丸付けに移る。

それと同時に、獅音のいるキッチンからどこか落ち着くような音と匂いが広がっていった。

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