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#32

「あ、俺の部屋ちょっと今散らかってるからさ、リビングでもいーい?」 

「あ、うん。お邪魔します。」


――久しぶりに()()()、聞いた気がする。誰かいんのか?


獅音に”どうぞ~”と案内され、家の中へと入る。

普段帰る場所とは違う香り。

それは、普段から感じる()()()()()だった。


――何か、よりこいつが近くにいるみたいじゃん。


琥珀の胸に一瞬痛みを感じた。

だが、昨日感じた針のような痛さではなく、どこかまた感じたいと思えるような不思議な痛みだった。


「リビングこっち!」

「あ……と、お手洗い場ってどこ?」

「あ、ごめん!我慢させてた?トイレは――」

「じゃなくて……外、出てたから手……洗いたい。」


少し顔を赤らめながら、琥珀は手の甲を見せる。

獅音は、一瞬少し驚いた顔を見せるが、優しく微笑む。


「そうだよね、確かに外出たし、うん。あ!じゃあリビングの使って、こっち!」


――やば、なんか琥珀が僕の家にいるとか不思議すぎて……実感が。焦るな……僕。


普通を装えているか不安を隠しながら獅音は、琥珀をリビングへと案内する。

手を洗い終え、獅音はリビングテーブルへと案内した。


「あ、このテーブルでやろ!好きな席使って!」

「わ、分かった。し、失礼します。」


琥珀が席に腰を下ろし、獅音は琥珀の緊張をほぐそうと一声かけようとした瞬間、2階から誰かが下りてくる音が聞こえた。


「あれ?お客さん?」


そうリビングへと入ってきたのは、スーツを来た背の高い、細身の男性――獅音の父親だった。


「あ、あれ?父さん。し、仕事は?」


あまりの衝撃に、獅音の言葉が震える。

琥珀は、静かに席を立ちあがった。


「これから出るところだよ」

「お邪魔しています。獅音くんと同じ大学に通う黒田琥珀です。あ、えっと……これ、少ないんですけどよろしければ召し上がってください。」


琥珀は、小刻みに震える手を隠しながら、持ってきた鞄から茶菓子の入った袋を取り出し、獅音の父親に渡す。


「あ、これはこれは丁寧に、ありがとう。獅音の父です。いつも息子がお世話になってます。獅音、()()()だから、これからもよろくね」

「あ、いえ。こちらこそよろしくお願いします。」

「珍しいじゃないか!獅音が友達を家に連れてくる――」


その後、獅音の父親は、琥珀からもらった茶菓子の袋を近くのソファに置きながら話を続ける。

だが、水の中で聞いているかのように琥珀も、獅音もしっかりと耳に届くことはなかった。


”息子がお世話になっております。”

琥珀がもう一生言ってもらうことのない言葉。


――そうだ、こいつには家族がいる。親がいる。なんでこんな大きい違いを忘れていたんだろう。なんで……どこか似てるなんて感じてたんだろう。


琥珀は一瞬、獅音と出会って間もない頃、教室で偶然見てしまった獅音の涙を思い出す。

あの時目を奪われてしまったあの涙を今はなぜか、鮮明に思い出すことができなかった。


”いい子だから、これからもよろしくね”

獅音が聞きたくない、認めたくない言葉。


――やめて……やめて、やめて、やめて。琥珀の前で言わないで、お願い。やっと仮面が外れてきたんだ。だめ、彼の前だけは本当の自分でいさせて……。

今は優等生の藤田琥珀じゃない。親のために、家族の中立でいる藤田獅音じゃない。琥珀は、そうやって見る人じゃない。琥珀を……一緒にしないで。


獅音は、混乱で埋め尽くされていく頭の中から必死に隙間を探す。

その隙間で、必死に今父親が求めていることを探した。


「と、父さん。お昼まだなんだ、ごめん。朝の残りならあるんだけど……。」

「いや、ご飯は大丈夫だよ。邪魔して悪かったね。琥珀くん、ゆっくりして行って」

「……あ、はい。ありがとうございます。」


琥珀は、少し反応に遅れてしまったが、獅音の父親は気にしていない様子だった。

近くに置いていたバックを手に取り、獅音の父は時計を確認する。


「獅音、今日も父さん遅くなるから。夕飯」

「あ、うん。わかった、いって……らっしゃい。」


父親が、本当は何を求めていたのか分からないという感情が、そのまま声に出てしまった。


父親が家を出発し、鍵の閉まる音が聞こえてから数分、何ともいえない空気が流れる。

そして、ついに獅音が口を開いた。


「ま、まさかいるとは思わなくて……急にびっくりしたよね。ごめん……あ、あとお菓子もありがとう!なくてよかったのに!」

「いや、礼とか……別に、人の家お邪魔するんだから普通だろ。」


少し冷たさを含んだ一言をこぼし、琥珀はまた席に腰を下ろした。


――何やってんだ。人の家の中だぞ。イライラするな、冷静になれ。


「でも、ありがとう」


さっきまでとは違い、より温かさの感じる声で獅音はゆっくりとお礼を告げながら、トレーを両手に琥珀の座るテーブルへと向かう。

トレーには、中サイズの丸い硝子コップが2つ、オレンジジュースがのっている。


「琥珀、ジュース飲める?」

「うん。」

「よかった。お菓子のそのまたお礼と言ってはなんだけどオレンジジュース持っていきました!それに、勉強するなら糖分じゃん?オレンジっていいとか聞いたことあるしさ!」


――オレンジジュースがいいってよく言われるの、スポーツじゃ……ま、いっか。


琥珀は、様々な思いを心に残したまま、切なさを隠した笑顔でオレンジジュースを注ぐ獅音の顔をただ静かに見つめていた。

最後までお読みいただき有難うございました!

改めまして、ゆきん子です⛄ 久しぶりの登場です(笑)

(初めて読んでくださり、ここまで来てくださった方!

私を見つけてくださり、さらに読んでくださり有難うございます!)


「透明な夜に色彩を」楽しんでいただけておりますでしょうか。

プライベートでは、いじめ等キャラが心を痛めているシーンが苦手で、読んだり、観ること自体避けることがほとんどの私ですが、なぜか自分の作品となると、キャラが苦しくなるシーンをよく入れてしまいます………。

ごめんね、琥珀、獅音。


さて、そんな二人の関係ですが、ついにお家デ……『勉強会』まで関係が進んできました!

途中まさかの父親登場でしたが……無事勉強会スタートです!


実を申しますと、今回の『#32』冒頭、獅音が急遽「リビングで勉強しよう」と提案してきたのは、昨晩獅音のための「あるもの」を決めるために様々な本で探し、そのまま寝落ちしてしまったからなんです!(笑)


どんな勉強会になるのか、獅音は琥珀にどんな小悪魔ぶりを見せるのか(笑)

そして、2人の関係はどう進んでいくのか!


私の頭の中で、猛スピードに流れる2人の映像を今後も上手く言語化できるよう、精進してまいりますので、応援していただけたら幸いです!

いいねや感想、レビューやブクマなどもいただけたら嬉しいです!

今後も引き続き、「透明な夜に色彩を」をよろしくお願いいたします。

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