#27
ドアが閉まる音と共に獅音が口を開く。
「よし、テーマも決まったし後はプレゼン資料作るだけ!スムーズに進められてよかった~」
「あぁ。」
――はぁ、やっと外の空気吸える。何回も目が合って気まずいし、何かやたらとドリンク飲むタイミングあって気まずいし、そもそもあんなお洒落で落ち着いた雰囲気の中、学生がしかも課題やるためのだけにカフェにいるって気まずすぎるだろ……。
琥珀は、2文字の音に様々な思いを乗せながら反応する。
「琥珀?」
急に黙り込む琥珀に、獅音は瞬時に反応してしまう。
顔を覗き込もうとするも、下を向こうとする琥珀の首の動きに妨げられてしまった。琥珀の耳を見るとほんのりと淡く赤い。
――さっきまで、目を合わせてくれたのに……でも、大丈夫そうかな
獅音は、安心の笑みを浮かべながら続ける。
「電車で帰ってるから、駅に向かっちゃうんだけど琥珀はどっち?」
「俺も駅。」
2人は、横並びで駅へと向かった。
――隣、来てくれるんだ。
獅音の鼓動が、不意に大きく揺れる。
あたりは日が落ち、街灯がともし始めていた。
一歩、また一歩歩くごとに琥珀の心の中に、真っ黒の絵の具が一滴、また一滴と落ちていく。
「楽しかったね!」
獅音の一言に思わず琥珀は、顔を上げる。周りが暗いせいで、獅音の表情がよく見えない。
だが、琥珀の心に温かい灯があがったことははっきりと分かった。
「う、うん……」
――楽しかった……のかな。これが、楽しい。
温かさが、淡いオレンジ色へと変わる。ゆっくり……波紋が連動していくかのように広がっていく。
「じゃ、今日はありがとう!琥珀は、電車?」
なぜか、獅音の一言で波紋が消える。
「歩……き。」
琥珀の声は、一段と小さくなる。この感情は、何なのか……ぽっかりと突然空いた小さな穴、埋めたくなるような小さな穴。
琥珀は知らない感情に再び戸惑う。
一方そんな琥珀の姿に、なぜか獅音の鼓動がまた大きく揺れた。
「どっち方面?」
「え。」
「やっぱり、僕ももう少し話したいし、家の方まで一緒に行きたいなって!」
「いや……」
その言葉に、琥珀の心の小さな穴が埋まった気がした。
雲がかった感情に太陽が差し込んだような気がした――でも気がしただけだった。
琥珀の感情はまた、夜のように暗い分厚い雲に覆われていく。
「いや、もう暗いし。帰れって、家族も心配してるだろ。じゃ、また。」
琥珀の心の中にまた真っ黒な絵の具が一滴落ちる。
琥珀は、獅音の返事を待たず、帰る方向へと走った。
――今日のお礼……言えなかった。でも、あいつがあの家に近づいたら、もしあの人たちに見つかったら……ダメだ。そんなのダメだ。
琥珀の心に黒色の絵の具がたまっていく。
琥珀の心は、あの灯を求めていた。




