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城壁都市リーヴェンス攻防記 ~新編・破壊の天使~  作者: 南風禽種
第4話 「魔導兵器」の恐怖
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4-4 青年司祭に隠された秘密

四 青年司祭に隠された秘密


 黒々とした石の壁が、街の外側と内側とを遮断し、空をも覆い隠す――。

 それが、城壁都市と呼ばれるリーヴェンスの巨大な城壁である。


 リーヴェンスの城壁は、街を囲む小高い丘の最高点に建てられている。尾根に沿うように延々と続き、都市のすべてを包み込むようにそそり立つ。

 その城壁の東側――。壁の内側の斜面に、まるで「へばりつく」ように広がった街区がある。


 そこが「第十七区」と呼ばれる貧民街(スラム)。ゴミの掃きだめのような、雑多な街区である。


 第十七区の住民たちは総じて、生活所得が低い。その日暮らしがやっとという生活を強いられている者が大半で、港の荷運び人足や、土木作業、金属加工、皮革の製造など、中産階級以上の市民が嫌がる仕事を日々こなしながら、生計を立てている。

 この街区に生まれた若者たちは、ある意味、都市になくてはならない、底辺の労働力を担わされる存在であった。


 底辺を体現したような貧しい生活と、タダ同然の安い労賃で使役される、奴隷のような労働。

 だがなぜ、ここに住む民衆だけが、そんな過酷な状況に置かれているのだろうか。


 それは、ここの住民の大半が「戦災難民の子孫たち」――だからである。


 故郷を捨て、街に逃れてきた難民ばかりが集まった第十七区は、いわば「流れ者たちが住みついた街」である。ここに住む多くの民衆は、かつて戦災で故郷を追われた人々、あるいはその子孫たちで占められていた。

 この当時はすでに「市民権」などという制度も、貴族階級や市民階級といった階級制度も消え去ってはいたが、彼らはいまだに、市民権を持たない隷属民の姿そのものであった。


 こうした難民の街は、規模の大小を問わず、どの都市にもあるといわれている。数百年も続いた激しい戦乱は、空前の繁栄を遂げ、公国自由都市などという美名を冠するようになったこの街であっても、今なお暗い影を落とし続けているのである。


 その第十七区のほぼ中央、大通りがやや広くなった程度のこぢんまりした広場。

 ここは通常、毎朝のように市場が立つ。住民たちにとって広場は生活の中心であり、憩いの場となる。

 だが今日はもう、商売をする者も買い物をする者もない。ただ風だけが吹き抜けていった。


 緊急の避難所でもある宿酒場は、この広場に面して建てられている。この街区ではほぼ唯一といっていい、すべてが石造りの立派な建物である。

 一階の酒場は避難所となったため、テーブルや椅子はすべて片付けられ、避難してきた住民たちが物音に怯えながら思い思いに座り込んでいる。誰もが疲れきった表情で、会話も少ない。


「こりゃあ、三年前のあの時以上に深刻ですなぁ……。座長」


 奥にあるバーカウンター。ひとりで飲みたい旅人のために作られたもので、十席ほどしかない。

 そのバーカウンターに頬杖をつき、木の椅子に腰かけたクルトがつまらなさそうに安酒のグラスを傾け、大広間を眺め回した。つい、ぼやきが口をついて出る。


 普段の酒場は、旅の商人や狩人、傭兵など雑多な職業の男たちが集う、にぎやかな場所である。

 煌々と照るランプの明かりの下で、いくつものテーブルを囲む男たちが酒をがぶ飲みし、塊の肉に食らいつく場所。ケンカは日常茶飯事。剣を抜いたために取り押さえられる酔っぱらいは、毎晩のようにいる。


 だが今夜、住民たちが暗い顔で座り込んでいる広間は、あの酒場と同じ場所だとは到底思えない。


 酔っぱらいなどはひとりもおらず、老若男女の住民たちが、テーブルも椅子もない木の床に座り込み、一様に不安そうな表情で、めいめいに膝を抱えて家族ごとに寄り集まっている。

 明かりが漏れないように鎧戸は閉め切られていて、蒸し暑い。住民たちは窓の外をしきりに気にかけ、物音がするたびに肩を寄せ合った。


 それを一望できるバーカウンターに立ち、グラスを拭きつつ住民たちの様子を見ていたベンが、クルトのぼやきをやんわりとたしなめた。


「まあ、そう言うな。みんながみんな、強いわけじゃねえさ。誰でもこんなに狭い空間に押し込められたんじゃあ、精神的にも参っちまうだろう」


「そう……なんですけどね。まさか三年前のあの日が、再現されちまうとは」


 三年前、帝国軍が初めてこの街を包囲したときも、ここは避難所に指定された。あの時は守備隊も根こそぎ動員ではなかったため、多くの若者が広間に残っていた。まだ活気があったといえる。

 だが、総力戦となった今回は、若者の数が目に見えて少ない。息巻く奴も演説をぶち上げる奴も、誰ひとりとしていない。


 クルトは暗い気持ちでこの状況を眺め終わると、頬杖をついたままベンの方に向き直った。


「でもせめて、帝国軍がどの辺まで来ているのか、どのくらいの人数が入り込んだのか、それだけでもわかると気持ちが楽なんですけどね」


「ふむ、敵の情報か」


 見上げるようなベンの巨体は、カウンターの向こうに立っていてもなお大きい。そんな彼が入っても窮屈にならないよう改造された調理場で、クルトの安酒をつぎ足しながら、ベンは思慮深く鼻髭をしごいた。


「鍛冶屋で下働きをしている若い職人と、昨日この避難所にたどり着いた色男の商人に、中央街区を見てくるように依頼してある。もうじき戻ると思うが、何か、帝国軍の動向につながるような情報が得られれば、御の字だ」


 情報収集を依頼したとは言いつつも、ベンは若い二人が無事に帰ってくるかどうか、むしろそちらの方が気になっているらしい。


「そう、ですよねえ。とにかく、帝国軍の布陣とか兵力とか、それだけでもわかれば……」


 頬杖をついたまま、クルトが情報を渇望する言葉を繰り返す。彼が頬杖をつくのは、何か考えごとをしているときである。長年の付き合いであるベンには、それがすぐにわかる。

 いや、それだけではない。ベンは、目の前のクルトがカウンターで何を考えているのかまで、とうの昔にお見通しであった。


「で……どうなんだ? 敵の布陣と兵力がわかれば、押し返せそうなのか?」


「…………!」


 意外なその問いをぶつけられたとき、さすがのクルトも頬杖から顔を落とし、驚きの目つきでベンの顔をまじまじと見返した。

 そんな視線を受けたベンは平然としつつ、洗い終わった皿を一枚ずつ拭きながら、お前の考えは筒抜けだとばかりにニヤリと顔をほころばせた。


「お前が周りからどう呼ばれていたか、二十年前、お前が俺の部下になったときからよく知っていたさ。向こうじゃ俺と同じ、危険人物だったってこともな……」


「……そう、だったんですか」


「俺はお前が、帝国と戦う決意をしてくれたことに感謝している。この街に残った戦力は中年や年寄りばかりで心もとないが、やるなら思う存分やってみろ。俺が許す……。中尉」


 クルトの方を向くことなく、皿を拭く手を止めもしないで、ベンは重々しい口調で言う。その言葉は、彼なりの叱咤激励であった。

 その言葉を受け止めたクルトは、注がれた安酒を取り上げて一気に飲み干し、飲み終えたグラスをカウンターに叩きつけると、身を乗り出して手をつき、ぐっと頭を下げて一礼した。


「ありがとうございます……少佐」


「おっと。その呼び名だけは、もうしないって約束だっただろ?」


「へへっ、俺の階級を先に言った、少佐が悪いんス」


 クルトの失言をやんわりと制しつつも意地悪っぽくニヤリと微笑むベンと、笑顔で反撃するクルト。上司と部下だったという彼らの間には、計り知れないほどの信頼関係が築かれているのかもしれない。


(うらやましい、ですね。わたしにも、過去の記憶さえあったら……)


 カウンターの端に座った青年司祭イズキールは、彼らの会話を聞きながら、飲みかけのワインを前に目を閉じ、瞑想をしながら、そんなことを考えていた。

 右手には聖印を持ち、静かに神への祈りを捧げる。そして自然に、過去の自分に思いを馳せた。


「……ぐっ!」


 その瞬間、脳髄を締めつけるような痛みが、不意に襲いかかってきた。

 目を閉じたまま眉間にしわを寄せ、イズキールは思わず痛恨のうめき声を上げる。


(……また、この頭痛が!)


 過去の自分を想像しようとすると決まって、頭の奥にこの痛みが起こるのである。脳の中枢に鋭い針を刺されたような、痺れるほど激しい痛み。

 それに耐え、眉間に緊張を刻みつけたイズキールは、なかば諦めるかのように、首を左右に振った。


(――ダメだ。三年前の自分を思い出そうとすると、いつも頭痛が襲ってくる)


 自分の過去を考えることから意識をそらしたイズキールは、眉間に指をあて、目を閉じたまますうっと深呼吸をした。すると途端に、痛みが遠のいていく。

 その痛みはまるで、過去を詮索することを禁じる、神の桎梏(しっこく)であるかのようだった。


(……わが主よ。これは、罰なのですか?)


 果たして自分には、ベンとクルトのような思い出があったのだろうか。過去の自分は、どのような人間だったのだろうか。できることなら思い出したい。だが、思い出せない。

 少年だった頃の記憶はぼやけていて、闇の向こうに隠れているかのように、暗い幕の向こう側にある。だがその幕を無理に取り払おうとすると、激しい頭痛に襲われるのだ。


(何がわたしに、過去をたどらせまいとしているのか……。わが主は、何をお考えなのか……)


 自分の過去には、何か特別なものでも隠されているのだろうか。それを思い出させまいと、何者かの意志が働いているのは明白である。イズキールはそれを、神の思し召しだと考えてきた。


(わが主よ、あなたはなぜわたしに、このような罰を賜ったのでしょうか。あなたはわたしに何を隠し、何を為せとお考えなのでしょうか……)


 普段は旅の連れが指定席にしているという椅子に座り、ワインを片手に瞑想をするイズキールは、心の中でずっと、そんなことを考え続ける。


 クルトのように頬杖をつくこともなく、端然とした姿勢で目を閉じ、瞑想するイズキール。だが、心静かに瞑想にふけろうとする一方、左手では自分の剣を、鞘ごと強く握りしめていた。

 この剣が、先ほどから小刻みに震えているのである。まるで、剣が意志を持っているかのように。


(こんなときに……。また、剣が騒ぎ出しましたか)


 左手に持った剣は、片刃で微妙な反りがある珍しいもの。柄と柄がしらが白く、もとは鞘も含めて白一色の美しい剣だったようだが、鞘はすでに失われたらしく、褐色の革製に置き換わっている。

 柄には様式不明の装飾が施されているが、かなり古いものらしく各所がすり減っている。柄がしらには神聖紋章が彫られていた。


 その上、この剣は小刻みに震えると同時に、イズキールに不思議な耳鳴りをもたらす。

 剣はイズキールの脳に、直接干渉することができるのかもしれない。ただしその耳鳴りは普通とは違っていて、叫び声のように、断続的に繰り返し響くものである。


 今回もまた、剣が震えるのと波長を合わせるかのような叫び声が、繰り返し、イズキールの耳奥に届いてきていた。


「…………」


 だが、叫び声のような耳鳴りが起こってもイズキールは目を閉じたまま、無言を押し通すのみ。

 あたかも心の中で、叫びを上げる剣と対話を試みるかのように。


(剣よ。お前はわたしの過去を知る、唯一のもの……。お前はわたしに、何を伝えようというのか……)


 こうして剣に心の中で呼びかけると、不思議なことに剣そのものの震動と、耳鳴りの波長が変わる。

 まるで剣が意志を持ち、イズキールの問いかけに答えようとするかのようである。


(……まだ、震動が弱い。本当の危険はまだ遠いが、用心しろ、ということですか)


 イズキールは左手の握力をゆるめ、目を閉じたまま、剣が言わんとしていることを何となく理解した。

 するとその途端に、左手に握られた剣の震動と、イズキールの脳に届く耳鳴りが急速に小さくなり、やがて収まっていった。推測が当たっていたのかもしれない。


(しかし……。このところ剣が呼びかけてくる頻度が高いですね。やはりここも、危険ということ……)


 すうっと深呼吸をし、静かに長く息を吐きながら、イズキールは目を開けた。そのとき目に入ってきたのは、飲みかけのワインと、右手に握られた聖印……。

 そして、心配そうにイズキールの顔をのぞき込むベンの浅黒い顔と、いぶかしげにこちらを見ている、クルトの顔であった。


「…………」


 眉間にしわを寄せていたイズキールが静かに目を開けたので、明らかにホッとした表情になったベンは、何を思ったか急に居ずまいを正し、一礼すると、深刻な顔でイズキールに声をかけてきた。


「……どこか、具合でも悪くなりましたか? 司祭様」


「いえ、大丈夫です。少し頭痛がしましたが、もう収まりました」


 二人に心配をかけてしまったことに気づいたイズキールは、当惑しながらも笑顔を示し、礼を返した。


「そうですか。おそらく、旅の疲れが出たのでしょう。非常時なので構いだてできず申し訳ないが、こちらのことは気にせず、ゆっくりしていってください」


「……ありがとうございます。ご心配をおかけいたしました」


 一般市民にとって、いかに相手が若かろうとも、エリートの知識階級である聖職者は常に目上の存在である。特にベンはその習慣を忠実に守ることで有名で、一神教の教えに対する敬虔さでも、第十七区の中では抜きんでていた。

 カウンターの奥から瓶を取り出し、飲みかけになったイズキールの酒杯にワインを満たしながらも、ベンはなおも話しかけてくる。


「ときに、司祭様。少しお伺いしたいことがあるのですが……よろしいですかな?」


 ベンは小声でそう言うと、カウンターを覆うように巨体を折り曲げ、イズキールの方に顔を寄せてきた。小声で話すつもりのようだが、地声が大きいためクルトにも完全に筒抜けである。


「――なんでしょう。わたしに答えられることであれば、何なりと」


 そう応じたものの、どんな問いが投げかけられることか。記憶がないイズキールとしては、身構えざるを得ない。

 だがそんな素振りは少しも顔に出さないイズキールは、一介の青年司祭として、にこやかな笑顔すら浮かべて応じた。


 それを受けたベンはうなずくと、咳払いをしてから質問を始めた。


「では……質問は二つ。司祭様ご一行は、このような危険な街へ、どうしておいでになったのでしょう? そして、他の旅人と同じように街から逃げることなく、この街に残った……その理由です」


 答えにくいだろうと踏んだのか、ベンは慎重に言葉を選んで質問してきた。街区の長として彼が知りたいと思うことも、慎重に言葉選びをする理由も、イズキールには手に取るようにわかった。


 帝国軍の包囲が始まってから、たまたま滞在していた旅人はおろか、行商人なども早々に逃げ出した。そしてあろうことか住民の一部までもが、この街を見捨てて去っていった。そんなときにどうして、戦場となることが明白で、生命が危険にさらされる可能性すらあるこの街に、居残る決意をしたのか。

 ましてや、イズキールはひとりではない。彼には足手まといにすらなりうる、旅の連れもいた。危険度は、それだけで数倍になるはずだ。


 だがそれほどまでの重い決意を、しかも個人的な事情を、つい数時間前に初めて顔を合わせた程度の人間が尋ねてもいいのだろうか。ベンはその葛藤と戦っているのだった。


 ベンは思い悩むとき、正直に顔が歪む。本人は平静を取りつくろっていても、表情までは隠せない。

 それを目にしたイズキールは思わず苦笑しながらも、穏やかな表情で語りはじめた。


「ここに来たのは、自分探しのため……。残ったのはそれがまだ、道半ばだったから……。そう答えたら、ご主人はお笑いになりますか?」


「自分、探し……ですか? いや、笑いはしませんが、それはいったい、どういう――」


 思いがけない答えを受けたベンは拍子が抜けたのか、顔の緊張を少しゆるめると、同じく拍子抜けしたクルトとともに、さらに顔を近づけてきた。

 先をうながされたように感じたイズキールは、ワインが満たされた酒杯を握りながら、さらに答える。


「三年前の出来事……。そう、実はわたしには、三年より前の記憶がないのです」


「三年以前の、記憶がない……?」


 イズキールをまじまじと見つめたベンが固唾を呑むと、イズキールは静かにうなずき、逆にベンに質問を投げかけてきた。


「……三年前の出来事といえば、ご主人は何か、思い出されませんか?」


 そんなイズキールの反問に、頬杖をついたままのクルトがベンに代わって回答した。


「そりゃあ……帝国軍が初めて攻めてきたのが、三年前だ。あの時は帝国軍が撤退したんだが、平原で不思議な爆発事故が起こって、そのせいで大損害を受けたのがきっかけだと言われてるな。今じゃあ、爆発が神の奇跡だとか言われているが」


 それにうなずいたイズキールが、ベンとクルトの顔を見比べながら、さらに続ける。


「その爆発があったという平原……。そこでわたしは全裸の状態で、この剣だけを握り、爆心と思われる地に倒れているところを発見された……。ある方より、そう聞かされました」


 左手に握っていた剣を持ち上げ、二人の前に掲げながら、そう告白するイズキール。

 即座に反応したのは、三年前、その爆発事故を間近で目撃していたベンだった。


「なッ……! まさか! あのひどい爆発の中で生きていたなんて……! 信じられません!」


 思わず身を乗り出し、大声を出してしまったベン。その大声に驚いたのか、広間で横たわっていた避難民の一部が、何事かとこちらを凝視してきた。

 横にいたクルトが、避難民に対し「何でもない」と左手を振り、ベンに向かって人さし指を唇に当て「シーッ」と言い静かにさせると、小声でベンの言葉を補足した。


「帝国の奴らが撤退した後、戦場掃除をした友人の話じゃあ、あの爆発は普通じゃなかったらしい。爆風に当たったら普通は鎧が壊れるのに、死体の鎧は無傷。犠牲者は、内臓だけが破壊されていたとか……」


「……ああ、それなら俺もこの目で見ました」


 当時を思い出し、深刻そうな顔つきのクルトがそう言うと。ようやく小声になったベンも、重々しくそれに付け加えた。


「あの場にいた俺は、伏せていたので大丈夫だったんですが、立った状態で爆風を受けた帝国兵は……。まるで、そう、中身の綿が飛び出た人形が、ボロボロになって宙を舞っている……そんな風に見えました」


 口々に当時の惨状を述懐するベンとクルトは、いくら何でもあの地獄のような状況で、しかも爆心地から生還するなど信じられないと、言外ににじませていた。

 そんな反応をされるのを、イズキールはすでに予想していた。一瞬だけふっと、寂しそうな表情になったが、すぐに微笑をその顔に浮かべる。


「わたしを助けてくださった、助祭様によれば……。あの爆発は遠くからだと、天まで届く光の柱に見えたそうです。助祭様が後日、教会から命じられ、聖跡調査で光の柱の中心と思われる場所に行ってみたところ、そこにわたしが倒れていた、と」


「天まで届く、光の柱……。マジな話なのか、それ……?」


 口を開けたまま、なおも信じられないといった表情で独語するクルト。一方で敬虔な一神教徒であるベンは、腕を組んでいちいちうなずいている。彼はもうすっかり、光の柱が神の奇跡だと信じてしまったらしい。

 そんなベンの様子を見て、イズキールは再度、剣を二人の前に掲げた。


「真偽のほどはわかりません。ですが……。わたしの三年以前の記憶が、欠落しているのは事実です。その真相を求め、わたしは、助手として同行してくれたメルという少女の導きによって、この剣をたずさえ、この街にたどり着いたのです」


 イズキールがベンとクルトに向けてそう言ったとき、心なしか、剣が少し震動したように感じた。

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