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31話目 会議という名の別の何か

 贅を凝らした装飾品、世にも珍しき逸品、見たものを圧倒し、自らが治める国の偉大さを知らしめることを目的としたそれらは多くの民の犠牲の上に成り立つものであった。


 しかしそれらの数々の品の中心にある席に座る、この国の王はそのような些事を一切顧みない。重要なのはその犠牲によってどのような品が手に入ったか、犠牲に見合う程の品であるかのみだ。


 王の周りにいる貴族たちも、彼らが支配する民を必要以上に顧みることは無い。彼らからすれば貴族以外の下賤な民などそこらにいる虫と大差なく、益を生み出すからこそ仕方なく支配してやっているのだ。





 この日、王宮には国の重鎮たる貴族たちが多数呼び寄せられていた。詳細について彼らは知らされておらず、ただ『国の趨勢を左右する会議である』とのみ告げられた。


 その言葉が最重要の勅命であることを示す書式によって知らされたため、一体如何なる事が起こったのか彼らは不安と共に王宮に馳せ参じたのである。



「それでは会議を始めさせていただきます」


 この国の宰相たる老人が会議の開始を告げる。普段であればこの国の成り立ちに始まり、如何なる繁栄を経て今に至るかといった長い前口上と共に開始するのだが、その時間さえ惜しいとばかりの様子である。



「皆の者、よく集まってくれた。書簡でも知らせてあるが本日の議題はこの国の、この世界の趨勢を決めかねないものだ」


 この場に集まった中で最も豪奢な姿をした人間のような豚……、いや、豚のような人間が言葉を発し場はざわめき始める。



 場が静まるまでの間、王は一人ほくそえんでいた。何しろ先祖からの悲願の成就が目前まで迫っているのだ。今こうして目の前の貴族らがざわめくのも仕方がない、と自然と寛容な気持ちになっていた。


 王は場が静まったのを見計い、彼らにある質問をする。


「お主らは最近ある噂を耳にしたことはないか?」


 その言葉を聞いた貴族らは互いに近くの者と言葉を交わす。


「帝国が兵を集めているという噂か?」

「獣人の国で英雄が生まれたという噂もありますぞ?」


 種々様々な噂を彼らは口にするが誰一人正解を口にする者はいない。そのことを王は当然のことだとも考える。国の(まつりごと)に関するような情報ならば知っておらねばならぬが、何故冒険者などという下賤も下賤な羽虫の口から広がる雑音などに気を配らねばならぬだろうか。王自身、偶然に偶然が重なって耳にせねば一生気にもとめなかっただろう。


 意見が出尽くしたためか貴族たちはその口を閉じて王の言葉を待つ。王は彼らを一度見渡し、正解を告げる。


「魔物の森に住まう男がおり、その者は魔物をものともせぬ、という噂があってな。それを確かめさせたが、どうやら真実のようなのだ」



「なんと!」

「それは真ですか陛下!」




 『その男を捕獲して適切な躾を施してやれば、この世界を支配する足掛かりになる』



 言外の意味を正しく理解した彼らは驚愕して王に尋ねる。それが本当ならばこの会議が世界の趨勢を決めるというのも過言ではない、いや、本当だからこそこうして招集されたのであろうが、それでも信じがたかった。


 王はその問いに答えず、ただ笑みを深くする。その笑みはからかいを含んだものではなく、ただ只管に興奮と愉悦に満たされたものであった。


 その笑みを見た者たちは王の言葉が真実であることを悟り、そしてその身を次第に震わせていく。この王国が、我らが、この世界の支配者となる時が来たのだと確信したのだ。


 感動と興奮を示す彼らに向けて王は議題を述べる。


「その男の捕獲に軍を動かすのだが……」

「陛下! 何卒わたくしめにご命令を! 必ずやその男を捕まえてみせます!」

「貴様! 何を言うか! 我が家系よりも軍の采配に長けた者など……」

「いやいや、今回の使命は一人の男の捕獲である故、普通に軍を動かすのとは勝手が……」



 王が言葉を言い切る前に、貴族らは我こそはと口を開く。


「静粛に! 王の御前であるぞ!」


 それを見かねた宰相が場を静めるべく言葉を発するが、やはり会議は遅々として進まなかった。しかし、この場にいる誰もが王国の更なる発展を信じて疑わず、栄誉ある国軍が敗北するなど一片の考慮もしていなかった。

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※話の大筋は変えませんが、最初から150話くらいまでの改稿予定(2019/12/7)  改稿、ってか見やすさも考慮して複数話を一つに纏める作業にした方がいい感じかな?  ただし予定は未定です。「過去編」「シャル編」「名無し編」は今は触りません。触ったら大火傷間違いなしなので。
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