20話目 縛りプレイ
シャルが森に駆けだしてすぐにドカンドカンと爆音が辺り一帯に響き渡る。絶え間ない爆発は昼間なのに辺りに明るさを与え、遠くで待っている俺のところまで微かに風が来るほどだ。
あちらでドカン、こちらでドカン、四方八方で爆発が響き渡っており、そのすべての場所でキラーウルフが丸焼けになっているのかと思うと心が躍る。
シャルがこれ程に爆発を起こすことが出来るのもやはりあの杖のおかげである。あの杖は魔力回復を促進する効果も持たせているのでシャル程度の魔力量ならばすぐに回復させることが出来る。
そして彼女自身に身体強化の魔法を教えたこともこの光景の作り出した一因だ。
身体強化の魔法は魔力を全身に行き渡らせ、固くなったり強くなったりするイメージさえ持てれば使うことが可能だ。無から有を作り出すのは凄まじいエネルギーを要し、火や水は『目に見えて、イメージがしやすい』ため唯一魔法で使用されているという面もある。
逆に元々身体に備わっている能力を強化するだけの身体強化の魔法はそれ程の魔力を必要としない。エルフは魔法に対して高い適性を持っているので元々から全身に魔力が行き渡っているため身体強化の魔法と相性が抜群に良いのだ。
だが魔法は『火や水を操るもの』という固定観念が邪魔をしてしまい身体強化の魔法は使われていない。エルフの場合は無意識のうちに使用して怪我の治りが早くなる程度のことは起こっているが……、そのことが災いして『エルフは多少乱暴に扱っても問題ない』と認識されてしまい、彼らが奴隷になると酷い待遇を受けることになってしまっている。
閑話休題。
無論その身体強化も杖の効果の対象なので今のシャルは高速機動が可能となっており、そのおかげで森のあちこちでキラーウルフが燃え上がる結果となっているのだ。
俺は俺でドカンドカンと心地よい響きをBGMにしながら自分の訓練の準備を行う。何だか興が乗って来たのでイロモノ武器を使用することにした。高速で魔力の塊を乱射してくる豚っぽい的を作り、虫取り網と空き瓶でそれをしのぐとしよう。
某勇者をリスペクトして服装も緑っぽい物を着込んで訓練を開始する。緑の帽子は恥ずかしいので着ていないが勘弁してほしい。
的を起動すると同時に庭が光で包まれ、シャルが起こしていた爆音が霞むほどの音が生じる。危険が無いように、当たっても体が弾き飛ばされるだけに設定してあるとはいえ、視界全部が埋まる程に展開された光弾は生命の危機を感じさせる程の圧力がある。
軌道を変化させながらも高速で迫る光弾の数々の間に微かに存在する隙間を縫うように動き、俺はじわりじわりと的へと近づいていく。そうはさせじと光弾の数は更に増し、的との距離に反比例してその密度は増していく。
「固定砲台とはいえ、これは結構性能が高いのを作ってしまったかもしれん」
一般人ならば百メートルも弾き飛ばされれば行動不能になるだろう。それは即ちこの光弾の一発一発が致命の一撃であることを意味しており、毎秒百発ではきかない程の量が発射されているこの状況は中々に地獄絵図であると言えよう。
戦争に用いられれば拠点防衛において無類の強さを発揮できるだろう。まあ俺の場合はそんな面倒なことしなくてもこの家に近づいた奴らを片っ端から切ればいいだけの話だが。
そんな無駄な考えに思考を割きつつも俺は的へと近づいていき、とうとう的を間合いの内に捉えた。さてそれでは一回戦はこれで終わりにしようか。
ん? 虫取り網と空き瓶でどうやって止めりゃいいんだ?
ちょっと待って、本当に何の変哲もない虫取り網と空き瓶じゃ的を停止できるほどの攻撃出来ないんですけど。光弾を弾き返せたとしてもすぐに打ち消されて意味が無いんですけど。でもここで殴り飛ばして止めるのも癪に障るんですけど!
何かいい手は無いだろうかと延々と悩みながら光弾を回避するという作業はシャルが森から戻ってくるまで続いたのであった。
魔王を封印した虫取り網は特別製だからね仕方ないね




