119話目 証明
冒頭にネット小説大賞用のあらすじを挿入しました。
1話ずれますのでご注意ください。
果たしてどうやってゴブリン討伐が完了したことを示そうか悩みはしたものの、あれこれと考える前にさっさと報告すべきだという結論を自分の中で出す。もしかしたら今運んでいる死体だけで納得してくれるかもしれない。……そういう人物には見えなかったが、逆にあれこれと難癖をつけて報酬の支払いを渋る可能性もあるな。金に困ってはいないから別に構わないが、そういう対応をされるとやはりトラウマっぽい部分を刺激されそうで困る。
そういう想像をするだけで気分が著しく落ち込むが、ついに村長宅の目の前に到着する。
「ああ! あんたたち! 早く準備してくれ! そろそろゴブリンがやってくる頃なんだよ!」
恐らく一向に姿を現さない俺たちのことを探しに行くべきか悩んでいたのだろう。奥さんと一緒に家の前にいた村長が俺たちを発見するなり駆け寄りながらそう声をかけてきたが、途中で立ち止まると一瞬顔を顰め、続いて驚いたように目を丸くしていた。
多分俺たちの後ろにあるゴブリンの死体を見て驚いたのだろう。顔を顰めたのは……、こいつらの悪臭のせいか。長時間ゴブリンの悪臭やキラーウルフの獣臭さに晒されたせいで嗅覚が麻痺してしまっているが、そうでなければかなりキツい臭いのはずだ。……帰ったら今着ている服は処分することにしよう。
「あー、その、後ろにあるそれについて説明してくれると助かるんだが……」
どうやら村長は俺たちが本当に森に行ってゴブリンを狩ってきたことは分かってくれたらしく、どういう経緯なのかと説明を求めてきた。そんなわけで先程決めた通りゴブリンの巣やキラーウルフの大群について言及することはせず、単にゴブリンが群れを作っていたのでそれを倒してその内のいくつかの死体を証明として持ってきたのだと説明をした。
正直言って自分でも大分胡散臭いと思う。普通の冒険者であればゴブリンはまず迎撃するものっぽいので、到着して即日にゴブリンの発見から討伐を行うなど非常識というか不条理というか、ともかく易々と信じられる話ではない。詐欺を行うために元からゴブリンの死体を用意していたと考えられても仕方のない話だと思う。
果たして普通の冒険者の事情をこの村長が知っているのかは知らないが、話を聞き終えると『うーん』と唸って何事かを考え込んでしまう。しばし、といっても数分にも満たない時間が経つと彼は首を捻るのをやめてこちらに顔を向けた。
「確かに現物がそこにありはするが……、数日ほど様子を見なければそれでゴブリンが全部居なくなったかが分からん」
結局のところ、あと数日ほどこの村にとどまってくれということらしい。こちら側の言い分を鵜呑みせず、それでいて頭から否定しないとなると妥当な判断と言える。
「まあ、そうでしょうね。とりあえず屋根がある場所を貸してくれると助かるんですが」
「それは大丈夫だが村の備蓄が心もとなくてな……。滞在の報酬や食料の方は……」
村長はそう言いつつ森の方角をちらりと見やる。どうやら追加の報酬は無い上に食料は自分で取ってきてくれという話らしい。いや、まあ、今回の報酬も必死に工面したのは嘘じゃないみたいだし滞在の原因作ったのもこっちだから構わないんだけどさ。一般の食糧事情を考えるとむしろそっちの方が好都合だから構わないんだけどさ。ただどうにも釈然としなかったので俺はわざとらしく溜息を吐いてからそれで良いと伝えると村長はあからさまに安堵した様子を見せた。
色々と文句を言われることもなく既定の報酬も貰えそうなのはいいんだが、何だか上手く乗せられた気がしてならない。やや不機嫌になった俺はその場を切り上げると空き家へと案内してもらった。
「シャル! 一緒に寝るぞ!」
ムシャクシャして言った。反省はしているが後悔はしていない。もちろん、借りた部屋で事に及ぶつもりは無いので単に添い寝をするだけになるだろうが、一人でふて寝するのも寂しいので他二名に対して開き直り、部屋をセッティングするなり堂々とシャルに要求することにしたのだ。
「ダメです」
「何で?!」
しかし俺の要求はあえなく却下された。その際のシャルはつっけんどんな言葉とは裏腹に良い笑顔をしていた。理由の説明もなく彼女はそそくさと割り当てられた部屋にこもってしまい、後に残されたのは顔を赤くしたリーディアと顔を伏せてぷるぷると震えているライザ、そしてまさか断られるとは思っていなかったために恥ずかしさで顔を真っ赤に染めた俺。恥辱に耐えられず、荷物もそのままに俺も部屋へと逃げ込み、そして気づく。
あ、これがお仕置きか……。歩いている間にすっかりと忘れてたよ……。
シャルは俺が部屋に入るのを見計らって部屋を出たのか、扉の向こうからは三人の楽し気な会話が聞こえてくる。会話の内容から察するに数日ぶりにちょっと良い食事をとっているようだ。一方俺はというと、当然部屋から出ることも出来ず、ちゃんとした料理も保存していなかったため部屋で一人寂しく保存食をモソモソと齧って一晩過ごすのであった。ちくせう、塩味がきついぜ……。
ヤル気がマイナスになってるのと簿記の勉強が合わさって執筆の危険が危ない。




