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104話目 駆け出し冒険者()

 そしてギルドの中は上を下への大騒ぎに……、とはならなかった。こちらの様子を窺っていた一部の冒険者達の間でざわめきが生じたもののそれだけだ。相手が単なる有名人、例えばギルドの中では英雄として扱われるような冒険者というような、有名でもただの平民ならばその顔を一目見るためや弟子入りを志願するために押しかけてきたかもしれない。しかしリーディアは皇帝の娘という超VIPな人物であるため無暗に近づく事が躊躇われたのだろう。


「皆さまは今回初めての依頼ですので、一級冒険者のライザ様を監督役として任命させて頂きました」


 冒険者の登録手続き、そして依頼の受諾が終了した後受付嬢がそう告げてきた。監督役なんて制度などあっただろうか、という疑問を俺だけでなくリーディアも思ったようで『監督役?』と口にして頭上に疑問符を浮かべていた。


 ちなみにだが、冒険者達はその腕前に応じてランク分けがなされており、最下級の十級から始まって最高が一級である。登録したばかりの冒険者は全て十級扱いで、二級はそこそこの数がいるが一級の冒険者は国に数人いるかいないか、といったところだそうだ。


「はい。登録したばかりの冒険者の方は依頼を達成するのに必要な知識や経験が欠けている事が多いため、その補佐として一定期間ベテランの冒険者に付き添いをさせているのです」

「成程、それはありがたいな」


 受付嬢からの説明を受けてリーディアは納得したようで、シャルも俺の横でうんうんと頷いている。いや、でもこれ絶対嘘だよね。仮に付き添いを付けるとしてもわざわざ最高ランクの一級冒険者を引っ張り出してくる必要なんて無いもん。


 多分リーデイアに護衛を付けるために急遽でっち上げた制度なんだろうな……。そう思いつつ薄目で受付嬢を見やるが、彼女は営業スマイルを崩すことなくにこにことしている。魔法や魔道具なんかを大っぴらに使えなくなるから出来れば止めてほしいのだが、ギルドにも立場があるため仕方ないとするか……。


 そう諦めているとバカでかい斧を担いだ女性が近くの階段から降りてきて周囲の冒険者達の間にどよめきが生じるが、彼女はそれを気にすることなくこちらへと向かってくる。身長が二メートル程はあり、一瞬男かと見間違えたが何とか着ている鎧の形から性別を判断することが出来た。


「よう、あたしがライザだ。今回の護衛は任せてくれ」

「ああ、よろしく頼む」


 ライザはそう言いながらリーディアに手を差し出し、彼女はそれに応じて握手をするが今さっきハッキリと護衛って言っちゃったよね? 隠しようも無いくらいハッキリと言っちゃったよね? 再度受付嬢の方を見やるとサッと顔を背けられた。


「あの、師匠、今あの人護衛って言ってたよね?」

「言うな、シャル、触れないでおいてやるのが優しさだ」


 肝心のリーディアは初めての依頼という事で興奮しているらしくライザの失言に気付いていない。まあ彼女が楽しそうなら何でもいいか。





「それで、依頼の場所は何処なんだい?」


 ギルドを出るなりライザに連れられて道具屋を訪ねることとなった。どのような依頼を受けるにしろ必要になるという事で野営用の道具や軽くて丈夫なリュックなどを買わされ、あまり美味しくなさそうだが腹だけは膨れそうな保存食も買わされた。そして駆け出しに必要な道具一式を揃えるとライザがそう聞いてきたので依頼書に書いてあった村の名前と依頼の内容を伝えた。


「ああ、あの村か。あそこは遠いからな。そこに行くだけで一人銀貨五枚……、あんたら三人で金貨一枚と銀貨五枚になるぞ」


 彼女の説明を聞いてようやく何故この依頼が残っていたのかを知ることが出来た。どうも件の村は相当遠方にあるそうで、辛うじて定期的に馬車が出てはいるもののその料金はかなり割高らしく、それだけで今回の報酬分は吹き飛んでしまうそうだ。彼女が言う銀貨五枚というのも馬車を使わずに歩いて行った場合での経費らしい。


 黒字にしたければ一人で歩いて行ってゴブリンを全滅させねばならず、安全を重視して二人で行ってしまえば儲けは無しになり、三人以上だと完全に赤字になってしまう。それならばこの依頼が残っていたのも納得であり、報酬の金貨一枚というのも決して破格の物ではなくむしろ最低限の物とすら言えよう。


 とはいえ一度受けた依頼を投げ出すわけにもいくまい。『あたしは自腹で構わねえが、あんたらはどうする?』とライザが続けて尋ねてくるが、ぶっちゃけライザが居なければ転移魔法で一発なだけに返答に困る。


 ライザの問いは『受けるのか、それとも投げ出すのか、受けるならば誰が行くのか』という意味合いであり、普通の冒険者ならば一級冒険者が付き添ってくれるという優位を生かして誰か一人で村へと向かうべきである。


 だがそれでは残った二人が暇をつぶすという目的を達成出来ないので、何の為にわざわざ冒険者に登録をしたのか分からなくなる。誰が行くかなど結局最初から決まっていることであり、そしてその移動手段も……、まあ、暇をつぶすということなら歩いていくのも悪くは無いだろう。


「三人全員で行くさ」


 そう俺が答えるとライザは顔を顰めて『あんたら冒険者にゃ向いてねえよ』と言ってきた。まあ経費が報酬を超えてしまうと分かっている選択をする奴は冒険者には向いてないだろうね。加えて、暗にライザの事を信用していないと言っているようなものだから良い気分はしないだろう。


 そんなやり取りが行われたものの、追加の保存食やランプ用の油等を買い足して昼前には村へと向けて出発するのであった。

Aquila、26を無事ゲットしたので書きました。

何故ブクマが減少から増加に転じたのか分からずに不安になっている今日この頃。

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※話の大筋は変えませんが、最初から150話くらいまでの改稿予定(2019/12/7)  改稿、ってか見やすさも考慮して複数話を一つに纏める作業にした方がいい感じかな?  ただし予定は未定です。「過去編」「シャル編」「名無し編」は今は触りません。触ったら大火傷間違いなしなので。
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