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前世の記憶を有する私は悪女と共にやり直す  作者: 完菜


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038 一年前と同じ光景 sideアルベルト

 黄金のシャンデリアが光り輝く王宮のホールには、王太子ディルクの婚約者をお披露目するためのパーティーが開かれていた。丁度一年前にも同じパーティーが開かれていたのだが、招待された貴族たちにとってはすでに過去の話。

 派閥争いなどに疎い貴族たちは、王太子を取り巻くいざこざも今日でやっと落ち着くだろうと期待していた。


 王族たちが入場し舞台の真ん中に、王と王妃、そして王太子ディルクとララが立つ。また、舞台端にいつもはいないアルベルトが控えていた。アルベルトは、普段と変わらない騎士然とした佇まいで王を見ていた。


 ざわついていた会場が静かになると、王が最初の言葉を口にする。


「皆に報告がある。今日をもって、私は王の座から退く。後継は、アルベルト・ヒュー・テッドベリーとする」


 会場に集まった貴族たちは、一様に驚き言葉がない。贅を凝らした煌びやかなホールは、シーンと静まりかえる。驚いているのは、貴族たちだけではなく王と一緒に壇上にいる王妃やディルク、その横にいるララもだ。アルベルトだけが唯一、何ら表情を崩さずに王の言葉を聞いていた。


 アルベルトは、会場内の貴族の動向や異母兄のディルクを見る。ディルクは、王の発した内容が理解できずに動揺し戸惑いを見せていた。


「アルベルト、皆に挨拶を」


 王が、壇上の端で控えていたアルベルトに声をかけた。アルベルトは王に一つ頷きを返すと、ゆっくりと壇上の真ん中に歩いていきディルクやララの前に立つと、大きくてよく通る声で言葉を発した。


「今日は、集まってもらい感謝する。本日をもって、テッドベリー国の王となるアルベルト・ヒュー・テッドベリーだ。尚、騎士団団長は暫くの間兼務となる。仕事に支障をきたすことなく精進すると約束する。以上だ」


 会場にいる誰もが事態を飲み込めずに、言葉を発する者がいない。暫くの後、動揺と不安、不透明な状況に不安視する声で会場が騒がしくなる。アルベルトの後ろにいる、ディルクとララも混乱している。ララが堪えられずにディルクに訊ねている。


「ねえ、一体どういうこと? 王になるのはディルクよね?」


 ララが、感情的にディルクに詰め寄る。放心状態のディルクも、そのはずだと今の今まで思っていた。自分こそがその意味を聞きたい。物心つく頃から、ディルクが王太子と決まっていて自分以外が王になるなんて考えたこともなかった。

 目立たず、主張もなく、後ろ盾もない、婚約者でさえ決まっていない。ないない尽くしのアルベルトが、王に指名されるなんてきっと何かの間違いだ。ディルクが、王に何かを言わなくてはと言葉を発しようとした瞬間、横にいた王妃が先に口を開いていた。


「陛下、一体何を考えておいでですか! 王になるのは、第一王子であるディルクです」


 わなわなと震えながら、怒りの籠った声だった。


「朝の民衆への惨状を聞いた。このままディルクを王太子にしておくことは、国が乱れかねない。早急に王族への印象を刷新する必要がある。こんな事態にした責任を私はとり、王妃と二人で離宮に引っ込むことにする。宰相を始め、王宮で働く者たちは今後、未熟なアルベルトに尽くして欲しい」


 王が、王妃への説明というよりは目の前にいる大勢の貴族たちに向けて話をした。王妃は、目が血走り今にも倒れそうだ。余程悔しいのか、持っていた扇子を力強く握りしめている。


「陛下! あまりにも、あまりにも突然過ぎます。我々に、なんの相談もなく勝手にお決めになるなど、許されることではありません!」


 今度は、ホールの真ん中からすごい剣幕で声があがる。


「フィリップス侯爵か。お主の言いたいことはわかる。だが、決定を覆すことはない。それに、お主にとってはそう変わるまい。これで、私は退出する。皆は、パーティーを楽しんでくれ」


 はっきりと言葉にした王は、王宮のホールを後にする。王妃は、そんな王の後を追う。きっと二人になって糾弾するのだろう。高位貴族たちも、王の後を追うかのようにホールを後にする。そしてその場にいた貴族たちは、この状況を見て王の決断も仕方がないと思い始めていた。


 ここまでで、今日の主役になるはずだったディルク殿下もその婚約者のララも一言も言葉を発していない。王の言葉を覆すことも、異母弟の発言を遮ることも何もできなかったのだ。しかも普段なら、ディルク殿下の最大の後ろ盾であるジョンソン侯爵がいるはずだが、残念ながら今日はこの場にいない。計算されたこの状況を作り出したであろう人物を思うと、じわじわと畏怖の念が押し寄せる。


 騎士団の団長であるアルベルトが、王族であることは誰もが知っていた。知ってはいたが、その身分を前面に主張する姿を見たことはなかった。壇の上にいるアルベルトは、王譲りの金色の瞳を輝かせて堂々とその場に立っている。何を言われても揺るがない、そんな自信さえ覗かせている。今まで見ていたアルベルトからは、感じたことがない姿だった。


「こんなのは違う。王になるのは、僕なんだ!」


 突然、ディルクが大きな声でわめき出す。そして、アルベルトの前に行き胸倉をつかんだ。


「おい! こんな大切な日に、皆を欺くようなことはやめろ! さっき言ったことを撤回しろ。お前は、平民の息子で後ろ盾も何もない癖に王になれる訳がない!」


 ディルクは、必死にアルベルトを糾弾する。だが、当の本人は涼しい顔だ。焦りなど微塵も感じさせず、冷めた目でディルクを見ていた。


「何もわかっていないのは、異母兄上の方だ。これはもう決定事項で、覆すことはできないし残念ながら他の選択肢はない」


 ディルクとは違い、鍛え抜かれた体だ。胸倉を掴まれたくらいではビクともしない。それどころか、片手一本で簡単にディルクの腕を振り払う。


「おい。ディルク殿下を連れていけ。今回の騒動の処罰は受けてもらう」


 舞台袖に控えていた、アルベルトの部下がディルク殿下を連れていく。


「やめろ。僕に触るな。この国の王太子だぞ!」


 ディルクは、騎士たちに抗い必死に抵抗している。だが、引きずられるように連れて行かれる。丁度一年前にも同じような場面を見ていたと、その場にいる貴族は思い出していた。


「待って。待ってよ。私は一体どうなるの? この一年、王太子妃になるために必死に頑張ってきたのに!」


 今度は、ララがアルベルトに訴えかけている。


「もちろん、王族との婚約だ。破棄することは私が許さない。良かったな、君はディルク殿下の妻になる」


 アルベルトは、ララに冷たい態度で言い放つ。ララは、目を丸くしアルベルトに縋りつく。


「そんな、そんなの嫌よ。私、王太子妃になれないのならディルクと結婚なんて嫌!」


 ララが、とんでもないことを言いその場にいる者たちを凍り付かせている。あんなに王太子のことを想っているとアピールしていた癖に……。


「おい、この煩い女も連れていけ。ディルクと一緒にしておいてやれ。真実の愛で結ばれた二人だからな」


 アルベルトが強烈な皮肉をララに叩き付ける。ララは、混乱から泣き叫び手の付けようがなくなっている。だが、残念ながら手を差し伸べる者は誰もおらず、無情に騎士によってホールから連れ出されていく。


 アルベルトは、ここでの自分の仕事は終わりだとその場を後にする。王との引継ぎが待っているのだ。




 王宮の一室に連れて行かれたディルクとララは、壮絶な言い争いをしていた。


「これは一体何なの? 私を王太子妃にしてくれるって約束したじゃない!」


 ララは、興奮してヒステリックに叫ぶ。


「僕だって、なぜこうなってしまったのかわからないんだ」


 ディルクも珍しく、大きな声を上げてララに言い返している。いつも、ララに優しく自分が守ってやるのだと言っていたのに。


「わからないなら、調べるなりなんなりしなさいよ! あなた、王太子なのよ? 今まで、何をやってきたのよ!」


 ララは、ディルクに向かってソファーにあったクッションを投げつける。ディルクは、クッションを難なく避ける。


「そんなこと言ったって……。何かあった時は、カロリーナに相談すれば何とかなっていたんだ。それが王太子妃の役目なんだよ。だから、ララが何とかしてくれよ」


ディルクも怒りを滲ませて、ララに吐き捨てる。


「信じられない。そんな頼りない男だったなんて思わなかったわ!」


 ララは、怒りが抑えられずに身近にあった物を片っ端からディルクにぶつけた。その夜は、遅くまで二人の言い合いが王宮の廊下に響いていた。


明日からキャロルに戻ります。

いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字脱字報告、いつもすみません。とても助かっています。

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「優等生だった子爵令嬢は、恋を知りたい」二巻


発売日 5月10日(金) 

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