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悪役令嬢は死霊公女になりました!  作者: 丘/丘野 優
第一章 運命の死

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第21話 迷いの庭園

 実のところ、馴れ初め、と言っても実際には僕が一方的に出会ったに過ぎない。

 僕がアリスに出会ったのは……アルタス王国王都魔術学園でのことさ。

 アリスは覚えているかどうか……。

 何せ、あれはきっと彼女にとって取るに足らない出来事だっただろうから。

 

 魔術学園は、アルタスにおいて、貴族の子女から大商人、優秀な平民まで含めて、将来この国の重要人物になりうる者たちを育成するための教育機関であることは、君たちも知っているだろう。

 だからこそ、その門戸は常に開かれている……。

 つまり、見学会というのが定期的にあるわけだね。

 まぁ、それでもそこまで頻繁ではなく、年に二度ほどだが……。

 見学会にはアルタスの貴族を始め、外国からの客も受け入れて、我が国の教育制度の充実しているところを示し、もって国力の宣伝と為すという目的もある。

 だからね。

 錚々たる面々が来るわけだ。

 

 僕はそんな中、ただの子爵に過ぎないわけだから……一応、貴族ではあるけれども、そこまで気にされなかった。

 その辺を歩いている教員や使用人に話しかければしっかりと対応してはもらえるが、重要人物とまでは見られていなかったというか、そんな感じでね。

 勿論、王族や高位貴族の方々と同じような扱いを求めていたわけではないし、そのように扱われては却って面倒だと感じるタイプでもあるから、それで全く問題なかったんだが……。

 実際、見学会は快適だったよ。

 魔術学園のカリキュラムや、そこで行われている授業の質も中々のものだと思った。

 そもそも僕も、若い頃には通っていたし、その頃と比べてかなり良くなっている部分もあったな……。

 食堂のメニューなんかが当時よりもずっと充実してて驚いたよ。

 僕の頃なんて、酷いものだった……とまでは言わないものの、もう少しなんとかなるんじゃないかっていう感じだったし。

 きっとあの頃から苦情を入れていた誰かの努力が実ったのだろうね。

 その中に僕がいたのは言うまでもないことだが。

 おっと……話がずれたか。

 

 そんな見学会を学園が開いて、僕のような貴族を招待する目的は、いずれ子息を入学させないかという勧誘でもある。

 とはいえ、今でこそ僕にはアリスとの子どもがいるが……あのときは独身で、そんな予定もなかった。

 だからというわけではないが……他の見学者と比べて真剣味が酷く欠けていてね。

 かなり自由に学園を歩き回っていた。

 そもそも、見学者に特に決まった順路が設定されていたわけでもなく、見たいところを好きに見て貰って構わない、というスタンスでもあったから出来たことだけどね。

 説明が欲しい場合には一応のルートというものも用意されていたけれど、昔通った場所だ。

 それなりに昔とは変わってはいても、基本的な構造は同じだから、主要施設だけ見て歩くというのも退屈に感じられたんだ。

 

 だから、僕は迷ってしまった。

 確かに主要な部分はさほど変わってはいなかったとはいえ、僕が通っていた頃から十年は経っていたからね。

 新しい建物や区画が沢山出来ていた。

 見慣れた建物も内部がかなり変更されていたりね。

 つまりは、分かったようで分かっていなかったわけだ。

 元々方向音痴なことも手伝って、どうやって元の場所に戻れば良いのかも分からなくなってね。

 周囲に教員や使用人、いやこの際生徒でもいいから誰かいてくれれば道順を聞けたんだが、授業時間だった上、かなり人通りの少ないところにいたみたいでね。

 残念ながら誰も捕まらなかった。

 それで仕方なく、とりあえず、一旦どこからか外に出て、自分の位置を確認しようと思った。

 幸い、そのための出入り口は見つけられて、外に出られはした。

 けれど、そこは庭園だったよ。

 しかも高い薔薇の生け垣で迷路になっている、芸術的な、ね。

 校舎ですら迷っていた僕だ。

 少し進んだだけでもう、全く位置が分からなくなって……。

 途方に暮れてしまった。

 けれどそのとき。


「……手助けが、必要でしょうか?」


 どこからか、そんな声が聞こえてきたんだ。

 きょろきょろと周囲を見渡しても誰の姿もなくて、一体どこから……と首を傾げた。

 すると、生け垣の間から、ひょっこりと何者かが姿を現した。


 そのときの僕の衝撃と言ったらなかったよ。

 何せ、誰も人がいないと、冗談ではなくもうこのままここで朽ちていくしかないのかなとまで思っていたその瞬間に、まるで薔薇の妖精のような愛らしい少女が現れたのだから。

 そう、そこにいたのは、柔らかな金髪に、穏やかに垂れ下がった目元、優しげな口元をした、美しくも可愛らしい少女だった。

 もしかして、彼女は妖精なのかな。

 そんなことを一瞬考えてしまうほどだったよ。

 でも、そうじゃない。

 そう理解できたのは、彼女が学園の制服を着ていたからだ。

 あぁ、ここの生徒なのか、とそれで分かった僕は、彼女に言ったよ。


「助けてもらえるとありがたい。正直、もう一体自分がどこにいるのかすら分からないんだ……」


 少女はそんな僕に言った。


「うふふ……この迷路に来られた方は、皆さんそうおっしゃいますわ。今日は貴方様で五人目ですの」


「五人……」


「ええ。見学会の期間だけ立ち入り禁止にしてしまった方がいいと思うのですが、学園の卒業生の方々の中にはどうしてもここを見たいという方もいらっしゃって……やむなく。けれど本当に遭難されては困ってしまいますから、わたくしのような、手助け役が巡回しているのです。他にも何人かいるのですが……わたくしが手助けする方は、貴方が一人目ですね」


「遭難って……まさか、いくら何でもこんなところで遭難なんてするはずが……」


 冗談でそんなことを考えていた僕でも、流石に一時間もあれば出られると思っていた。

 けれどそんな僕に少女は言うのだ。


「普通の迷路でしたらそうなのでしょうけど、ここは初代学園長が丹精して作られた疑似迷宮ですので。細かなルールを知らなければ本当に一生出ることが出来ません」


 そういえば、確かに在学中に聞いたことがあった。

 学園のどこかに、そのような庭園迷路がある、と。

 ただ、探そうとしても中々見つかるものではなく、僕は当時諦めた記憶がある。

 そんな話を彼女にすると、


「それもルールの一つですね。必ずここにたどり着けるというものでもないのです。やり方を知らなければ……。それにしても、卒業生の方でしたか。卒業されてから始めてここに入られる方というのは確かに珍しいですわ」


「そうなのかい?」


「ええ。大抵は、在学中に見つけられた方が来るだけですので……。ともあれ、どうぞこちらに。出口までご案内します」


 僕は彼女の先導に従って歩き出した。

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