94話 vs軍隊蝿①
「≪スキャン≫」
ハエの軍勢に向けて≪スキャン≫をかける。あれを1つの個体としてみるのか、大群としてみるのか、どちらなのでしょうね。
≪軍隊蝿Lv1≫
「……なによ、レベル1じゃない」
しかしハエたちはそのレベルに見合わぬ大きさへどんどん変貌していく。もう少し待ってからもう一度≪スキャン≫を掛けてみましょうか。
とはいえ魔獣がパワーアップするのをただボーッと見つめるだけのわたくしではない。
「『ライトニング!』」
当然雷の魔法で一閃。沢山のハエを焼却しようと試みる。が、ハエたちは野生の勘とでも言うべき反射神経で雷を避けていった。
「なっ……レベル1に!?」
「アリス様! ここは任せて欲しいのです! 『忍法:倍化手裏剣』」
ユリアンが手裏剣を投げた数秒後、ハエたちに向かっていく手裏剣が一気に巨大化した。こんな技も身につけていたのね。
「サクッと斬るのです!」
もうすでにドヤ顔のユリアン。でもわたくしの『ライトニング』を避けたあのハエたちだと……と思っていたら予想通り手裏剣の通り道を予測したハエたちは綺麗にそこだけ隙間を作って手裏剣を素通りさせた。
「なっ! 嘘なのです!」
どうやらレベル1のハエとはいえ、侮れないようね。おそらく他のハエたちと危機管理能力を共有しあって回避と生存にのみ長けた個体が集まっている……というのがわたくしの仮説。あれが集合して完成したらどうなるのかしら……。
わたくしたちも下手に動くことができないまま数十秒が経過する。ハエたちは群がり、集まり、大きな1つの個体を形成した。
「改めて……≪スキャン≫」
≪集結軍隊蝿Lv36≫
レベル36……普通に強い魔獣にまで成長するのね。塵も積もれば山となるとはまさにこのことだわ。
「でも個体が大きくなった分仕留めやすくなりましてよ? 『ライトニング』」
大きな1体のハエに向かって電撃を放つ。その巨体ではどうすることもできないでしょう?
雷がハエに直撃しようかというその瞬間、ハエたちが一斉に分散して雷を素通りさせた。
「なっ!」
わたくしが驚きの声をあげる頃にはすでにハエたちは群がって1個の生命体に戻っていた。なるほど……そういう避け方もあるのね。
「みんな気をつけて。このハエ、一筋縄ではいかないわよ」
「「「はい!」」」
さてどうしたものでしょう。あのハエにまず攻撃を当てないことには始まりませんわね。柚子とロマンみたいに剣で戦うタイプでは絶対にすり抜けられることを考えるとわたくしとユリアンで攻めるしかないわね。
「……ミミちゃん、何かないかしら?」
『ご期待のところ悪いけどこの状況で使えるような権能は無いかな〜。メンゴメンゴ〜』
まぁそうよね……。ミミちゃんは攻撃より防御の方に権能を持っているようですし、攻撃はわたくしの力でやるしかなさそうね。
「アマちゃん、何かない?」
『範囲攻撃できるものならあるけど、柚子の刀に合う魔法ではないわ。どうしても使って欲しいというのなら後で裸さえ見せてくれればやらないこともないわよ?』
「あ、じゃあいいです」
『なんでよ!』
……なんで神様ってこうマイペースで緊張感を壊してくるのかしら。アマちゃんは柚子にセクハラを働く気満々ですし。もしそんなことをしたらわたくしがアマちゃんを吹き飛ばしますわよ?
っと、そんなことをやっている場合じゃなかったわね。あのハエたちはこちらに殺気を向けてきても攻撃を加えて来る様子はない。ならもう素通りしていいんじゃないかしら。
「ちょっと近づいてみるわね」
「お、お気をつけて……」
心配そうに声をかけてくれる柚子。冷静に考えるとハエの大群に突っ込むわけだから気分は良くないわよね。
近づいてみるとチラホラとハエたちが一個体から分散し始めた。……わたくしの出方を伺っているのかしら?
『あ、アリスちゃん。それヤバイ』
「へ?」
ミミちゃんに言われてハッと気がついた。数匹のハエがいつのまにか体にくっついている。
「離れなさい!」
わたくしがそれを払いのけようとすると……ドン! っと小さく爆発した。
「なっ!?」
腕に小さな火傷を負う。ヒリヒリとした痛みが脳に送られ、次に判断すべきことを告げてきた。他の付着しているハエを落とさないと!
『アリスちゃん、よく見たらそいつら噛みついてるから離れないよ』
「なんですって!?」
今体に張り付いているハエは6匹。まさかこれがすべて……
「くっ!」
咄嗟にハエから走って逃げる。その間に小爆発を繰り返して体にたくさんの火傷を負った。
「アリス様!」
「へ、平気よ。『応急手当て』」
火傷の痛みが引いていく。今はあまり近づきすぎずに7匹で済んだから良かったものの、10倍の数で攻められたら終わっていたかもしれないわね。
どうやらあのハエたちはわたくしたちを何としても【イリス】へ向かわせないようにしているみたいね。上を見るとハエたちが空を占拠している。飛ぶことも許されない。
ここまで周到にやってくるということは……なんだか嫌な予感がするわ。【イリス】には何かが待っている。こんなところで立ち止まっている場合ではなさそうね。一刻も早く倒さないと……。




