109話 vs魔王ですわよ③
「凡人の身でアリス様に勝とうという目標は……難しいですね。流石です、アリス様」
「よしなさい。今の貴女の力はわたくしと同等ですわよ」
レベルの話ではなく、本当にわたくしと対等な力を柚子は持っている。わたくしをこの世界に送り込んだ時にすぐ【魔弾】を王位から下ろしたその力は本物ということね。
右手の炎の剣、左手の嵐の剣を握る力を強める。柚子と言葉を交わす間に気持ちの整理をつけた。
たぶんわたくしの考えを実行したなら一瞬柚子の気を引けるはず。そうすればわたくしの考えをじっくり伝えるための時間を生むことができる。
ただ……その考えを実行することがわたくしにとって躊躇われることだった。葛藤に時間を割いている場合ではないというのはもちろん理解している。それすら分からぬほど馬鹿じゃありませんもの。ただ……どうしても踏みきろうという勇気が湧いてこなかった。
「行きますよ! アリス様!」
「くっ!」
切っ先をわたくしに向けて突撃してきた柚子。このハイレベルな戦いに葛藤や迷いをする余裕はない。今のもわたくしでなければ即死だったでしょうね。唯一の救いは柚子がわたくしを殺したいわけではないということだけね。それだけに助けられている気がするわ。
「『神刀:陽光一刀奏』」
[アマノムラクモ]の刀身が消えた!? ……いや、そうじゃない! 上か!
わたくしのはるか頭上に巨大な刀が浮かんでいる。そこから発せられる殺気はとんでもないものだった。
「さぁ、アリス様の左腕を切りおとせ!」
頭上の刀が振り下ろされる。わたくしの左肩をめがけて下された刀を両手に握る剣で挟み込んだ。
「ぐっ……!」
さすが、魔法で強化と巨大化をしただけあってとんでもなく重たい一撃ね。
「はあっ!!!」
なんとか気合いで刀を弾き返す。……でもそこをただ見ているだけの柚子ではなかった。
「アリス様!」
刀身を戻した[アマノムラクモ]の切っ先をわたくしに向けて再度突撃してきた。……なるほどね。
それをなんとか避けて反撃に転じる。
「『ダークネス!』」
闇の球体を空に浮かべて柚子を飲み込ませようとする。もちろんこれに引っかかるような柚子ではなくひょいひょいと避けていく。……逃がさないわよ!
「『ダークネス!』『ダークネス!』『ダークネス!』」
空中にいくつもの闇の渦を顕現させ柚子の逃げ場を塞いでいく。それすら厭わずに柚子はスイスイと飛んでみせた。わたくしより飛行能力に長けているかもしれないわね……。
「ふふ。アリス様、可愛らしい戦法をお取りになりますね」
柚子はわたくしを嘲笑うかのような顔になった。柚子のそんな顔、見たくなかったというのが本音ですわね。
でも……でも同時に嬉しさも感じている。柚子の……好きな人の知らなかった顔を見られるのは嬉しいことでしょう?
「『ダークネス!』」
「おっとっと……。だから意味ないですよ〜アリス様。いくら『ダークネス』を空中に増やしたところでどんな魔法でも避けられますから!」
「そうかしら? 『ライトニング』」
柚子に向けて雷の魔法を放つ。柚子はまるですべてわかっていたかのように微笑み、絶妙なタイミングで避けてみせた。
「ね〜? 『ダークネス』の配置は流石にお上手ですけど、だからと言ってアリス様の魔法が必中になるわけではありませんよ?」
「そうね……『ダークネス』」
「……聞き分けの悪い方ですね。『神刀:陽光斬』」
橙色の斬撃が飛んでくる。『ダークネス』の隙間から狙ったような斬撃はちょうどわたくしの足元へ落ちるような軌道だった。……が、すぐに方向を転換しわたくしの肩へと向かう。
「くっ……! 『ダークネスシールド』」
瞬時に判断して闇の渦の盾を召喚する。
それを見た柚子の顔が一瞬曇ったように見えた。もしかしてわたくしの真意に気がついたのかしら? ……いや、それはないでしょう。柚子も頭は切れる子ですけどわたくしほどではない。ここまで計算しているとは到底思えないわ。
だから……
「『ダークネス』」
「……何か隠していますね。アリス様」
「何がかしら?」
「さっきから『ダークネス』系統の魔法しか使われていない。私の移動範囲を狭めてから魔法で仕留める気かと思っていましたが……何か他に狙いでもあるんですか?」
「さぁ、どうでしょうね。貴女も御陵院アリスのお付きなら自分で考えるようになさい」
そうは言っても、柚子はこの真意にまではたどり着かないでしょう。だからこの勝負……すでにわたくしの勝ちですわ。
「さぁ、行くわよ柚子。『ダークネス』」
わたくしが『ダークネス』を使い続けているのは柚子の行動パターンを絞るため。何回も使った闇の魔法に柚子は囲まれている。それこそ剣を思いっきり振ったらついうっかり飲み込まれることもあるくらいに。
「……なるほど、私の攻撃を妨害することが目的でしたか」
柚子がそう結論づけた。20点。落第ね。
「でもお忘れじゃないですか? 私の攻撃は斬るだけじゃない! 突くことだってできるんですよ!」
切っ先をわたくしに向け、突撃してくる柚子。『ダークネス』はまるで花道を作るかのように柚子の通り道となっていた。誘発成功ね。
「それを待っていたのよ。『ストレージボックス』」
「なにっ!?」
柚子の目の前に『ストレージボックス』を召喚する。[アマノムラクモ]と両手が『ストレージボックス』に飲まれ、身動きが取れなくなっていた。
「ふふ。作戦成功ね」
「まさか……私の攻撃を防ぐためでも、アリス様の攻撃を当てるためでもなく……突きを選択させるための『ダークネス』!?」
「正解。よくできましたわね」
さて、これで柚子は反撃もできずただわたくしにひたすら蹂躙される身になったわね。必死に手を抜こうとしているけど『ストレージボックス』の奥は異界。力任せに抜けるわけがないわ。
「くっ……このぉ!」
でもレベル100の柚子なら何をしでかすかわからない。だからここは柚子の戦意を折ることが重要。スゥーっと息を吸い込む。緊張しますわね……。
「……アリス様?」
目の前で深呼吸をするわたくしに目を丸くする柚子。そんな柚子の頬にそっと手を添えた。
「……1度しか言わないからよく聞きなさい」
「え……」
「愛しているわよ柚子。どの世界の、誰よりも」
その言葉とともに、柚子にキスをした。これがわたくしの奥の手。そして最後の手段。この魔法の名は……『愛』




