10話 わたくしの支配下ですわよ?
【アイン】の街の領主はちょっとしたお城に住んでいるという。以前柚子が傀儡とするために向かった際に警備の位置は掴んだらしく、サラリとお城の内部に潜入できた。こういうことをやらせたら柚子は最強ね。この手の教育を受けていただけあるわ。
「領主はこの扉の奥です」
「そう。ありがとう」
コンコンと扉をノックする。
「入りたまえ」
偉そうな人ですわね……。
「失礼いたしますわ」
「むぅ? 誰だね君は……ってあぁ! 柚子様!」
柚子の顔を見た瞬間に領主は椅子から立ち上がってダッシュで近づいてくる。
「近寄るな下郎!」
「ぐふっ!」
柚子に腹部を思いっきり蹴られ吹き飛ぶ。痛そうですわね……。
「こ、こちらの方は?」
「初めまして。こちらの柚子の主人、御陵院有栖と申しますわ。この度はわたくしの傀儡となっていただいたことに感謝を伝えようと参上しましたの」
「ゆ、柚子様の……主人!?」
「父上! なんの騒ぎですか!……き、貴様は!」
慌ただしくドアが開く。入ってきたのは若い金髪の男。
「あら? 領主のクズ息子じゃない」
「は、ハーランド!」
わたくしの顔を見た瞬間顔を怒りに支配されたクズ息子はわたくし達に向かって手を広げる。
「おのれ……神聖な領主室へ足を踏み入れるとは許せん! 『フレ……』」
「はぁ。柚子」
「はい! せやぁ!」
「ウゴォッ!」
「鞘をしたままですから。実質峰打ちです」
いい気味ね。しばらくそこで転がっていなさい。
「続けますわね? 【アイン】の街の受け渡し、感謝いたしますわ。今後この街の決定事項はわたくしを通すこと。よろしいわね?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 私はここの領主だ! いくら柚子様の主人とはいえ領地の機密まですべて晒せというのは……」
「はぁ。柚子? 教育がなってないんじゃなくて?」
「も、申し訳ありません!」
「とにかくここは私の領地だ! いくら柚子様の主人でも譲れぬものはある!」
「はぁ。なら譲るというまでそこに転がっているボロ息子のようにするまでよ。柚子?」
「ハッ! せやぁ!」
「うがぁっ!?」
柚子の裏拳を頬に受けて吹き飛ぶ。うん、かなり飛びましたわね。痛快ですわ。
「なんなんだ……なんなのだ! 私は領主だ!この土地では神に次いで偉い存在だというのに!」
「ふん。何か勘違いしているんじゃないかしら」
「な、何!?」
「権力者の上に立つ者は神じゃない。より強い権力者よ。つまりわたくしのことね」
「鬼!……悪魔!……」
失礼ね。そこまで酷いことをしているつもりはないのだけれど。
「クソ! ちょっと強いくらいでエラそうにしおって! 凄腕の冒険者たちを雇って貴様らを殺してやる!」
「ふん。やっと本性を見せたわね」
「ハッ! 良い気になるなよ小娘が……! 『スキャン!』」
あら……魔法が使えたのね。いいわ、この領主に「現実」というものを見せてあげましょう。今回は『偽造』無しでいきましょうか。
「ふん! どれどれ……なっ! なにぃ!?」
「驚いたかしら?」
「あ、ありえん! Lv100だとぉ!?」
領主は泡を吹くかのように口をパクパクさせる。数秒後にこちらを見て涙目を見せた。……需要ないわよ? あなたの涙目なんて。
「いいじゃない。凄腕の冒険者とやらを雇ってみせなさい? わたくしたちを倒せる冒険者が……この世界にいたらいいわね?」
「わ……」
「わ?」
「私の領地でよければなんなりとお譲り致しマスゥゥゥゥ!!!」
地に頭をつけるほどの完璧な土下座で宣言。ちょっと勘違いをしているわね。
「勘違いしないでいただける? この地はこれからもあなたの地よ? ただ……決定権はわたくしにあるということを忘れないようにと言いたいだけよ」
「はい!はい! それで構いません! 靴だって舐めさせていただきマスゥ!」
「アリス様に近寄るな下郎!」
「ギャフン!」
またしても柚子に蹴りを入れられる。それでも意識があるなんてタフですわね……。
「む? アリス様、誰か来ます!」
「隠れましょう。上手くやってくださいね? 領主様?」
「ひ、ひぃ!」
とりあえず領主室の奥に置いてあった机の下に隠れることに。あっ♡ 狭い机の下に潜り込んだから柚子と距離が近いわぁ! 柚子の鼻息が頬に当たって…
「あふっ……♡」
「いかがなさいました?」
「な、なんでもないわ。気にしないで」
「は、はぁ……?」
「領主様! 失礼します!」
「う、うむ。なんだね?」
ぷっ。ついさっき「靴だって舐めさせていただきマスゥ!」って言ってた者が格好つけて「なんだね?」と言っていると思うと笑えてきますわね。
「そ、それが! それが!」
「落ち着け、なんだというのだ」
「ま、街の門前に大量の蛇が押し寄せているんです! その数ざっと5000!」
「ご、5000の蛇だと!? バカな! まだ魔蛇の年には10年ほど猶予があったはずだぞ!」
……魔蛇の年? 気になりますわね。
「わかった。至急冒険者を集めよ。 おいハーランド! 起きろハーランド!」
「むっ……父上……奴は……」
あら、あのクズ息子を起こしちゃうのね。ずっとマヌケな顔で伸ばしておけばいいのに。
「今はそれどころではない! 街の危機だ。緊急クエストとして処理するからお前が指揮をとれ。いいな?」
「なんの話かまだわかりませんが……いいでしょう!」
そういえばLv22なのでしたっけ。まぁ蛇くらいなら片付けられそうね。
「よし、君も行きたまえ」
「はっ!」
報告に来た男が走って部屋を後にする。
「バカな……もう魔蛇が目覚めたというのか……」
「魔蛇……?」
柚子が不思議そうに尋ねる。わたくしも気になっていましたわ。確かあの大蛇もわたくしが倒した際に叫んでいましたわね
『我を殺して……【魔蛇】様が黙っておらぬぞ! 』
と。それと関係があるのかしら?
「この【アイン】の街は魔王城から最も遠く、魔獣も少ない比較的平和な街です。ただ……魔王軍の7人の幹部の内の1柱である魔蛇が近くの森に眠っているのです。魔蛇は50年に1度私たちの街の娘を何人か差し出せと要求してくるのですが……前回の要求からまだ40年しか経っていないのに……」
魔王軍の幹部……なるほど、日本に帰るためにはいずれ倒さなくてはならない敵ということね。
「それが5000体の蛇と何が関係しているの?」
「詳しくはわかっていませんが……魔蛇が目覚めると蛇たちが数千体で街へ襲いかかってくるのが報告されているんです。5000もの蛇が自然発生的に同時に街へ襲いかかるとは考えにくいので魔蛇が関わっているかと思う次第です」
「なるほどね……柚子!」
「はい!」
「少し気になるわよね? 蛇たちを見ていかない?」
「はい! そもそも私たちも冒険者ですよね? 戦わなくていいんですか?」
「そうね……戦わないのも不自然でしょうからLv12とLv9に相当した戦いをしましょうか。そうそう、わたくしたちのLvの件は内密にお願いしますわね。領主さん?」
「は、はいぃ!!!」
「よろしい。では柚子、行きましょうか」
「はい! 腕がなりますね!」
「昨日戦ったばっかりじゃない」
「えへへ……実は緊急クエストという響きに興奮しちゃって……」
なんか最近この子の興奮する要素がわかってきた気がしますわ。本当はわたくしで興奮して欲しいのだけれど……。
領主の城を飛び出して組合へ向かった。




