心霊探偵助手の補佐から(3)
八月十二日 午後十時二十五分 プールサイド(二十五メートル規格)
「で、なにを調べるの」
さつきはプールの周りを歩き、ショーコはプールとその周辺の写真を撮り続けていた。
プールはフェンス越しでグランドに面しており、そこに設置されていた二つの外灯によってプール周辺は比較的明るく、時折水面に映った外灯の明かりがゆらゆらと揺れている。
「うんとね、情報としては」
ショーコは端末を操作し、画面に目を落とした。
「今年の六月にね、プールの排水溝に引き込まれそうになった男子学生が、ぎりぎりのところで助かったっていう事件があったらしい」
ちょうど、その辺なんだけど。ショーコはプールの中心部を指差した。
「どういう状況よ、それ。全然イメージできないんだけど」
「うーん。わたしも文字だけだとちょっと・・・」
「それで排水溝ってどの辺?」
さつきはプールの水面を見た。
「情報収集は助手の基本。いやー、あるもんだねえ。このご時世だと」
ショーコは画像をさつきに見せた。
「ああ、これね」
「そうそう、水を抜いたときのプールのやつ。去年の冬だから確実な情報だよ。この位置が、これだから」
ショーコは飛び込み台の前を歩き、四コースの前で止まった。
「ちょうどこの四コースの真ん中らへんかなあ」
「ふーん、というかさ。もうわかったじゃない」
さつきはショーコの横に立って言った。
「え?ばかな。まだ来たばっかりだよ!」
「いやだって。その男子生徒が排水溝に引き込まれそうになったっていう、設備上の問題があって、それを改善するように言ったけど、何かの理由でだめだったから誰かが匿名で告発しようってネットに。っていうだけの話じゃないの?」
「あ・・・。え、ちょっと。え、そんな」
ショーコは端末を操作し、投稿された画像と文章を見た。
「確かに、筋は通ってる。『ここはあぶない』っていうことね。ちょっとさつきちゃん、やばいよ。もう助手の補佐というか、助手を飛び越えて探偵見習いの位置まで到達してるんじゃ」
「そんな大げさな話でもないでしょ、これは」
「いや、でもさ。もうちょっとだけ、ね!せっかくここまでやったんだし、もったいないっていうか」
「なによ、そのもったいないっていうのは」
「ほら、別の可能性も考えたほうがいいよ!と、みせかけてー、的なさ」
ショーコは四コースの飛び込み台の上に立って周りを見渡した。
「それ逆だから。オカルトと思わせてちゃんとした理由があるっていうのが普通でしょ」
「そうなんだけどさあー。でも、まだいけそうなんだよこの話は。これは助手の勘なんだけど。ねえ、なんかない?違った角度からのアプローチは」
「なんにもないと思うけど」
でもまあ、あるととすれば。さつきは座り込んでプールの水に触れた。
「水温じゃない?ほら霊気が集まるところって温度が下がるっていうし」
「ああ、それはきいたことある!よくサーモグラフィーみたいなので検証してるよね。この場合だと、ええと、四コース中心部周辺の温度が低ければ」
「設備の問題だけじゃなく、複合的な理由で引き込まれたのかもしれない。あ、しいて言えば、よ!」
「よしよし。では調査だね、さつきちゃん!プールの外側だけでも探ってみようよ。中心に近い方が温度低いかもしれないし。ええと後、二十分ぐらいだけど。とりあえず」
ショーコは靴と靴下を脱いだ。
「はあ?あんた足でやるの?」
「プール全体を周るとしたら、しゃがんで手を入れながら移動するの大変だからねえ」
ほうほう、この温度ね。ショーコはプールに足を出し入れしながら歩き、ショーコの様子を見ていたさつきは、飛び込み台がある正面に移動し、かがんで一コースから順に手を入れて温度を確かめていった。
「おお、さつきちゃん。ちょっとごめんよお」
さつきがいる飛び込み台付近まで来たショーコは、さつきをかわして足を入れる。
「もうちょっと遠くでやってよね」
六コースの台に座っていたさつきは水面から離れた。
「いやー、それだとプールの中に入らないといけなくなるよ。でも、さつきちゃんは丁寧だねえ。まだここなんだ」
「あんたが早すぎるだけでしょ」
「ふっふ、このまま一コースまで行けば一周だよ」
ショーコは再び足を出し入れしながら進んだ。
「お、さつきちゃん。終わったのかい?」
最後の七コースまで調べたさつきは、一コースの飛び込み台に座り靴下を履いているショーコに近づいた。
「うん、まあ一応。あんたどうだったのよ」
「それは、その・・・」
靴を持ったままショーコはうつむいた。
「正直、一回足をプールに入れて出した瞬間にもうわからなくて。次足入れても、つめたくて気持ちいいな。ぐらいの」
「じゃあ、なんでわざわざ一周してるのよ」
「立場が入れ変わりつつある今、すぐやめたら怒られそうな気がして・・・」
「じゃあ、特に変わったところはなかったと」
「あったのか、なかったのかすらわからないよ。わたしには」
ショーコは静かに靴を履いた。
「まあ、あのやり方じゃあね」
「じゃあ、さつきちゃんは何か収穫があったの!」
「うーん、でもやっぱり先入観からか四コースに来ると冷たいような気も」
「そう言われればわたしも、そんな気もしてきたような、そんな気もする気がする」
「なによそれ。でも、もう時間でしょ?」
さつきはプール近くにある時計を見た。
「ああ、そうだ。もう十一時だし、そろそろ出ないと」
「やるならちゃんとやらないと。明日午前中ならできるけど」
「おお!明日もねー、水泳部遠征でいないんだ。ふっふ、ゆえにこのタイミングで実行に移したのだよ」
「いいんじゃない、暗いから忘れ物見つからなかったとかで」
「うんうん、明日また取りに来るって、守衛さんから明日の用務員さんに言ってもらうようにするよ」
「じゃあ、今日は解散ね。明日温度計持って来て」
「はいよお、まかせて!用意しとくよ!」
ショーコはさつきに向かって親指を立てた。




