83・これからも幸せです!
断言されても全く思いつかず、エレファナはうつむいて考え込む。
(どうしましょう。セルディさまは素晴らしい方ですから、全てをお手本にしても大丈夫だと思っていました。まさかセルディさまがしてくださることで、他の人にしてはいけないことがあったなんて……)
「そういえば私、体調の悪い人がいたら、セルディさまのように心配し過ぎている気がします。それとも相手の方の好きなものをプレゼントしたときに、なにか良くないことがあったのかもしれません。もしかすると疲れている方の寝坊を、見過したことでしょうか……」
エレファナは小さな声でぽつぽつと内省しながら、自信なさそうにてのひらで口元を押さえている。
「いや。俺も君にそのことを伝えていなかった」
セルディは愛おしむようにそっと、エレファナの手を取った。
そして彼女の背に腕を回し、やさしく抱き寄せる。
「しかし大切なことだから、忘れずにいて欲しい」
見上げるとセルディの凛々しい面立ちに、ぞくりとするほど色気のある笑みが浮かんでいた。
(あら。どうしたのでしょう。いつもはほかほかするのに……)
苦しいほどに胸が高鳴ってくる。
「目を閉じて」
いざなわれるまま、気付いたときには唇が重ねられていた。
さりげないのにうっとりするほど柔らかな感触に、エレファナは幾度もからめとられていく。
そのたびに思考がほどけ、もう引き返せない、甘美な罠にはまっていくようだった。
互いの吐息が触れる距離で、セルディは甘やかに囁く。
「ね。他の人にしてはいけないよ」
「は、い」
エレファナは震える声でどうにか返事をすると、セルディの胸元にぎゅうと抱きついた。
今まで経験がないほど、顔が熱くほてってくる。
(なぜでしょう。いつもおでことか頬とかこめかみとか、たくさんたくさんしてもらってます。そのたびにほかほかな気持ちになるのですが。今は……)
エレファナは途方に暮れたような、か細い声で訴えた。
「セルディさま、どうしましょう。今の私、おかしいです。もしかすると、心がどんどん壊れているのでしょうか」
「大丈夫、壊れていない。むしろ嬉しい」
「壊れてないとわかるのですか?」
「わかる。君は本当にかわいいだけだ。なにも心配はいらない」
セルディは自分から離れようとしない愛しい妻をあやすように、あちこちに口づけを落としながら、やさしい手つきでその背を撫でる。
エレファナは高鳴る鼓動に戸惑いながらも、その腕の中で目を閉じた。
「あの……私、最近ようやくわかってきたのです」
「ん?」
「セルディさま、私に甘すぎますよね」
「そんなことはないだろう」
即答される。
「でも会ったときからそうだったと思います。危険な魔力を持つ私が弱っているのに、セルディさまは封じたり閉じ込めたりするどころか、元気になる手助けをしてくれました」
「俺は弱っている者を問答無用で捕らえるような、卑怯なことをするつもりなどない。ただドルフ領主としての責務を果たさなければならず、気が張っていたことは事実だ。そんな俺に対して、エレファナは話せば話すほど愛らしく俺に接してくれた。そんな君に最良の環境を整えたくなるのは当然だろう」
「それだけではありません。私はもう元気です。でも影が怖いだけで、最近も添い寝をしてくれますし」
「俺は怖がっている者を放っておくつもりもない。というか俺が君のそばにいたい。ただ君の寝顔を見たいがために寝坊をさせてしまうのは、少々自制しなければならないが」
「それに私が嫌だったら、どんなことでも……国からのお願いごとも断るのですよね?」
「君は今まで、あらゆる命令をひたすらこなし続けるだけの生活だったはずだ。そんな君の願いなら、どんなことでも叶えたい。むしろ俺にだけわがままを聞かせて欲しい」
エレファナは確信する。
「セルディさま、やはり……」
「……しかしそうだとしても、なにも問題ないだろう」
セルディもようやく気づいたらしいが、しかし変えるつもりはないらしい。
「どちらにせよ、これだけは言える。エレファナ、愛しているよ」
さらりと告げられる言葉に、ためらいはなかった。
エレファナもそれを、当然のように受け入れて微笑む。
「はい。私もです!」
その思いを、二人は自然と交わすようになっていた。
増え続けていく、これからの幸せな思い出と共に。
<おしまい>
こうしてそれぞれが、幸せに暮らすこととなりました!
ここまでの道のりにお付き合いくださって、本当にありがとうございました。
さらにブックマークやいいね、評価ポイントまで!
エレファナとセルディを応援してもらえた気がして、とても嬉しかったです。
そして今回のお話。
ふたりとも今までの自分のお話にいないタイプ(しかもダブル天然)だったせいか、平和なお話になった気がします。
でも後半があんな展開になったのは、いつもの癖ですね。
大丈夫だったかな??
それでもここまで読んでいただけたことに感謝です。
では、またいつかお会いできることを楽しみにしています。
ご愛読ありがとうございました!




