82・ますます賑やかになっていきます
「バートの兄貴ぃ! そろそろカミラお嬢のお迎えの時間だです!」
「ああ。今行きます」
「でも兄貴は忙しいんだろます? 俺たちが代わりに行ってもいいんだぜます!」
「いえ、僕が行きます。あいつは他の人だと遠慮して、すぐ無理をするので。最近まともに話せるようになってきたし、僕も多少は頼ってもらわないと……」
バートは淡々とした言葉を止める。
そして自分に注がれる、数々の視線にようやく気付いた。
「……なんですか。みなさんそろって変な顔をして。言いたいことがあるなら口で言えばいいじゃないですか……っ、だからなんですか! さらにグレードアップさせたその妙な顔は!!」
その場にいるにやにや顔の全員を代表して、セルディがいい笑顔で返す。
「バート、行っておいで。カミラが君を待っているのだろう」
「セルディさま、僕に変な顔をしている場合ではありませんよ。最近は城に仕える者たちが、奥さまと会えるようになりましたからね。お気づきだと思いますが、みなさんすでに奥さまに懐きまくって、すりこみかと思うほどの愛着行動を起こしていますから」
「……知っている」
「ですよね。いくら夫といえども、奥さまを独り占めするわけにはいかないでしょうね」
バートは一礼すると、従者たちと部屋を後にした。
(私を独り占め? もちろんしなくても大丈夫です! 私のことなら、みなさんも協力してくださいます。セルディさまだけが無理をする必要はありません)
「セルディさま。このゼリーはとてもおいしいので、きっとみなさんも喜んでくださいます。さっそく食堂に行きましょう!」
エレファナは、後ろに置いてあった木箱を持ち上げようとする。
「あらっ」
思った以上のずっしり感にふらつくと、セルディがさっと手を伸ばした。
「エレファナ、君は強い女性だから、自分にできることは当然のようにこなしてしまうけれど……。こういうときは俺に頼ってくれると嬉しいのだが」
(セルディさま、この重い木箱を軽々と持ち上げてしまいました。訓練のたまものです)
「ありがとうございます。でも私、セルディさまのおかげで元気になりました! たまにはふらついて、こうして支えてもらうこともありますけれど。それにご安心ください、他のみなさんも助けてくださいますので!」
「……そうだな。みな君を慕っている。君が城内を歩いているだけで、人が引き寄せられるようにやって来る」
(セルディさま、私のことを見守ってくださっているのですね!)
「そのうち話す順番の取り合いになるほどだった。様子をうかがっていても、俺の入り込む隙間が無かった」
珍しく拗ねた口ぶりのセルディに気づいて、エレファナはまじまじと見つめる。
(なぜでしょう。セルディさまがつまらなさそうな顔をしています。私、みなさんと仲良くできていると思っていたのですが……)
「私はセルディさまと一緒にいて、してもらって嬉しいことをたくさん覚えました。だからみなさんにもそうするようにしています。そのおかげで仲良くなれたと思っていました。でも……もしかすると、失敗していましたか?」
「いや、逆というか……。俺が君にしても、他の人にはしてはいけないこともあるだろう」
「え! まさかそんなことが……」
「ある」
断言されて、エレファナは目を丸くした。
「あるのですか!?」




