80・旦那さまが見守ってくれています
「セルディさま、おいしいです!」
いつもの食事の席に着いているエレファナは、そばで自分を見守っているセルディに向かって満面の笑みを向ける。
王太子のアステリオンから、先ほど「精霊の食べたがっていたあれだよ」と、王都でも人気のフルーツゼリーが贈られてきた。
きれいなガラスの器に盛られたそれは、涼やかに艶めいている。
ゼリーの中央に丸ごとの形を残しているミカンは食べごたえがあり、見た目からして贅沢だった。
柑橘の酸味が甘くさっぱりとしていて、口あたりが良い。
一口ごとに、つるりとした食感が滑りこんだ。
「これは夜会でお会いしたご令嬢さまたちが『おいしい』と話していた、王都でも人気のフルーツゼリーのようです!」
「荷馬車にうず高く積まれている木箱を目撃したときは、唖然としたがな」
「これだけあれば、精霊さんも満足なのではないですか?」
エレファナは上空に目を移す。
「どうですか? 精霊さん」
視線の先には、猫の姿をした精霊が空中で寝そべっていた。
「最高においしいよぉ~」
エレファナが食べれば、精霊は彼女の魔力を食べるので満足するらしい。
(私が食べると私の魔力に影響して、精霊さんにおいしさと元気が補給されます。すると国内の加護が強まっていく……いいことしかありません!)
アステリオンからも、「精霊が所望する品は、加護を受けるための国の防衛費だと思っていいから。欲しいものがあれば、遠慮せずに教えて」と言われている。
「エレファナの魂にくっついているのも好きだけど。この国は僕にとても親切だなぁ」
あれから精霊は、セルディの城でのんびり過ごしていた。
そして精霊がエレファナの外へ出てきた影響なのか、それとも望む品をエレファナに食べてもらっているためなのか、加護の力はますます強まっている。
国中で、魔獣は全く目撃されなくなっていた。
「でもエレファナ、あのときのことも、全部僕の加護だけで浄化したことになっているんだよね? 本当にいいの?」
エレファナが聖域結界を張って魔獣の大量発生を抑えたり、ドルフ皇帝と対峙したことについては、アステリオンや一部の者たちにだけしか知られていない。
「はい。私の力を知って驚くようなことを考える人が、出てくる場合もありますから」
あの夜、フロリアンが王城の北側の庭園へ向かったのは、複数の人物に目撃されていた。
直後、魔獣の大量発生や未知の影の襲撃が起こり、エレファナによって被害は最小限に抑えられている。
そのため明るくなってから、城の者たちが周辺を調査した。
庭園からは前日まで無かった遺物と、彼の上着の金ボタンが発見される。
フロリアンが第二王子主催の夜会に持ち運んだ遺物の影響で、王城に一連の厄災が起こったことは明らかだった。
フロリアンは王家に対する反逆者とされ、調べると彼の両親もその行為に加担していたことが判明したため、爵位剥奪と国外退去の制裁を言い渡されている。
しかしフロリアン本人は、あれから一度も目撃情報がないままの処分だった。
「まぁ。エレファナがいいのなら、僕もいいんだ」
精霊は腰と尾を高く上げると、大きく伸びをする。
「でもそろそろ、ゼリーは満足したかなぁ」
「もう満足したのですか?」
「うん! 残ったゼリーはエレファナが自由にしていいよ。もちろん食べてもいいし」
精霊は立ち上がると、長い尾をぴんと持ち上げる。
「僕、ビビアンとひなたぼっこしてくる」




