79・間違いありません!
「私がセルディさまに、愛を教えたのですか? でも私の心は……」
戸惑っているエレファナに気づくと、セルディはいつもそうするように手を伸ばして、しっかりと抱きしめる。
「君が他人と自分の心が違うと感じているのは知っている。それは構わないさ」
「構わないのですか?」
「心は強要するものではないから、それぞれでいいのだと思う。ただ俺は君を愛している。俺たちの枷は無くなったが、君さえよければ俺のそばに……これからも妻でいてくれると嬉しい」
セルディは互いの体をそっと離した。
そして先ほどまでの迷いは消えたように、まっすぐエレファナを見つめる。
「だがそれは俺の願いであって、君がそれに合わせるような息苦しいことはしないでくれ。俺に遠慮せず、エレファナの正直な気持ちを聞かせてほしい」
「私の気持ち……」
(私はセルディさまと一緒に過ごして、色々なことを教えてもらいました。私は私のことを知りました。それに、セルディさまのことも)
ふと、影の世界でひとり捕らわれていたときの、あの漆黒の景色が浮かんだ。
「私、ドルフ皇帝の影に捕らわれたとき。少しだけセルディさまの気持ちがわかった気がしました」
「俺の?」
「以前の私なら、そういうものなのだと思って、ドルフ皇帝に魂を捧げていた気がします。逆らうこともできたのに、それを考えたことすらなかったのです。誰も困りませんから。でも今は……。私がいなくなったら、セルディさまは……」
エレファナの胸の奥から、強い感情が込み上げてくる。
しかし以前のように涙を流す代わりに、偽りのない笑顔を浮かべた。
「セルディさま、私もセルディさまに教えていただいたのです。苺が好きとはどこか違う気持ち……」
(礼拝堂で知った、名前のつけられないあの気持ちの答えがわかりました。間違いありません!)
「私はセルディさまを愛しているのです!!」
エレファナ溢れる喜びのまま、抱きしめてくれているその人をしっかりと抱きしめ返す。
セルディは驚いた様子で、しばらく固まっていた。
「……そうなのか?」
「はい!」
「それはつまり、もしかすると……妻でいてくれるのだろうか?」
「はい、妻ですから! もちろん妻でいます!」
セルディはまだ信じられないのか、おそるおそる体を離す。
しかし目が合うと疑念は払われたように、いつもと変わらず微笑み合っていた。
「エレファナ、手を貸して」
「はい!」
礼拝堂のときより慣れた様子で、二人は改めて指輪をつけ合う。
もう互いの指に枷はなく、ただ輝く銀の指輪が再び収められた。
セルディに手を取られた自分の指輪を見つめて、エレファナはにっこりする。
「私とセルディさまみたいです」
「指輪が?」
「ぴったりですから!」
銀の指輪はまばゆい朝日を受けて、自ら光を放つ宝石のように輝いた。
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