77・精霊さんも嬉しそうです
猫の姿をした精霊は、ドルフ皇帝の禍々しい気配がなくなったことに安心したらしい。
くつろいだ様子で空中に寝そべった。
「どうやら辺りの空気も清浄になっているね。これなら僕もエレファナの魂に隠れてまた、ごろごろ眠っても……」
「精霊さん。私を助けてくださって、ありがとうございます! こうして会えて、ようやく色々なお礼が言えます!」
「うん! これで安心して、そろそろ僕も眠……って、え? お礼はさっき聞いたけど」
「それだけではありませんから。あのまま私がドルフ皇帝とり込まれて力を奪われていれば、次は王城が襲われていたんです。精霊さんの協力のおかげで、たくさんの方が助かりました!」
「えへへ。良かったなぁ。じゃあ僕はまたのんびり眠……」
「それに私はずっと、精霊さんに会ってお礼が言いたかったのです。あなたがいてくださったおかげで、近ごろは魔獣の出没もほとんどなくなりました。私だけでなく、騎士の方も使用人の方も、みなさんとても喜んでいました!」
「……そうなの?」
「はい! なによりあなたの元気な姿を見ることができて、私はすごく嬉しいです! 出てきてくださって、本当にありがとうございます!」
「う、うん。でもそんなに喜んでもらえるなんて……」
「エレファナに全て言われてしまったが、俺からも伝えたい」
セルディはドルフ領主と名乗ってから、エレファナとほぼ同じ内容の感謝を深々と述べる。
精霊はここまで歓迎されるとは思っていなかったらしい。
「僕は寝ていただけなのに」
ぽかんとした様子で一通り聞いていた。
「えっとね、僕……」
精霊は再びのんびり眠ろうと考えていたはずが、小さな口元をもごもごさせて言い直す。
「エレファナとセルディがそこまで喜んでくれるのなら……。せっかく目が覚めたんだ。僕の加護がどのくらい効果があるのか、確認がてら散歩でもしてこようかな」
「はい、見てきてください! 身体が休まったら、次は体力をつけるのがいいそうです!」
返事のように、精霊の尾が揺れた。
「そうだね。寝るのも好きだけど、散歩も好きだよ」
「元気になるためには、ごはんも大切です!」
「ごはんはもちろん好きだよ! 僕が寝ている間、エレファナはなんでもおいしそうに食べていたもんね。だからエレファナにくっついている僕も幸せだったんだ」
精霊の大きな目が食欲にきらりと光ったのを見て、セルディも頷く。
「それなら君の散歩のあと、ドルフ領に戻って望むものを用意しよう。なにが良いのか考えておいて欲しい」
「え、いいの?」
「遠慮はいらない。精霊が健やかであればドルフ領、そして国の加護に繋がるんだ」
「じゃあ散歩しながら考えておくよ! でも望むものが食べられるなんて……なににしようかな。迷っちゃうよ」
「迷うこともない。欲しいものはすべて叶えよう」
「本当!? 寝苦しくて無理矢理起こされたような状態だったけど。目覚めてみれば良いことばっかりだなぁ!」
精霊は機嫌良さそうに長いしっぽを振る。
そして当然のように空中に一歩踏み出してから、思い出したように二人を振り返った。
「そういえば君たち、ドルフ皇帝からようやく解放されたんだね。おめでとう!」
精霊は軽やかな足取りで空を駆けあがっていく。
セルディは枷のことだと思い当たったらしく、エレファナの手を取った。
「指輪の下を確認してもいいか?」
そう問われて、エレファナは自分のてのひらを前に出した。




