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【完結】愛を知らない傾国の魔女は、黒銀の騎士から無自覚に愛着されて幸せです  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
9章

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72・妙案があります!

「君は誰にも文句も言わず、恨まず、課せられたことをずっとひとりで受け入れてきたのだろう。でも今は俺がいる。以前のような無理をする必要はないし、誰にも従わなくていい」


 相変わらずさいなまれているはずのセルディは、しかしエレファナにはやさしい表情で続けた。


「これからは自分の時間を生きて欲しいんだ。淡々と命令をこなすだけだった俺が君に会えて、そう変われたように」


(セルディさまはこんなにつらそうなのに、今も自分が害されているのに。ドルフ皇帝から私を遠ざけようと……守ろうとしてくれているのですね)


「ありがとうございます、セルディさま」


 エレファナはセルディに贈った銀の指輪を、心を込めて撫でた。


「今の私は、自分の時間を過ごす楽しさを知りました。だからこそ自分の意思で、大切な人を……あなたをお守りしたいのだと思います」


 セルディは力が抜けたかのようにまぶたを閉じていき、無防備な様子でエレファナに身体を預ける。


「勝手なことをして、すみません」


(セルディさまの着けている指輪に、治癒と睡眠の魔導をほんのり滲ませました。これで枷の苦しみも和らぐと思いますが、間接的な力ですし、ゆっくりもしていられません。あと少しだけ、お待ちください)


 安らかな寝息を立てるセルディの背中を、エレファナは愛おしむように撫でた。


「セルディさま、今は私にお任せください!」








 *



 月明かりに照らされた夜空を、ひとりの魔女が滑るように飛んでいる。


(上手くいっているようです。魔獣たちの姿は見当たりません)


 眼下にはまばゆい光を放つ聖域結界が王城をぐるりと囲み、数十メートルほどの間隔を置いて何層にも渡って遠くまで張り巡らされていた。


 そのため夜は更けていたが、視界は思いのほか明るい。


(ドルフ皇帝が消える前に、セルディさまを蝕む枷をどうにかしなければいけません)


 ドルフ皇帝の消滅によって枷が消える可能性も考えられたが、残ればセルディが永遠にあの状態で苦しみ続ける恐れもあった。


(セルディさまはおそらく、ドルフ皇帝の血を引いているのだと思います。その血の影響で、生まれたときからあの枷を着けていたのでしょう。そして枷を持っていた私の元婚約者の皇太子さまと同じく、ドルフ皇帝の支配下に置かれているようです。だから私のために命令を拒んで、あんなにつらそうにして……)


 ソファに横たえてきたセルディのことを思い、エレファナはじりじりと痛む胸に手を当てた。


(セルディさまは、こんな苦しい気持ちまで教えてくれるのですね。いえ、心配はいりません。私にはこれから、セルディさまを枷の束縛から解放する妙案があるのですから! その名も『深く考えず、確認せず、どうぞよろしくお願いいたします!』作戦! セルディさまに聞いて欲しいほど良い作戦名だと思います!)


 どこからか湧いてきた自信を胸に、エレファナは速度をぐんと上げる。


「ぜひとも成功させたいです!!」





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