64・旦那さまはまっすぐなお方です
それからアステリオンはエレファナが傾国の魔女である証として、セルディと揃いの枷を確認する。
「なるほど。疑っていたわけではないけれど、枷から拘束の魔導を感じる。本物のようだね。ところでセルディ」
アステリオンは相変わらずの軽さでセルディに笑いかけた。
「私としてはあまり聞きたくないことなのだけれど……いいね?」
「はい」
「もしエレファナが国にとって……王族に対して危険な行動をとるようなことがあれば、の話だけれど。君のその枷によって、エレファナの魔導を抑えてもらえるのかな?」
(そうでした。婚約の枷は、服従の枷でもあるのです。しかし……)
エレファナがきゅっと自分の手を握り、言うべきか迷っていると、質問を受けたセルディは真剣な様子でアステリオンと向き合う。
「もちろんです。エレファナが望まないことであれば、私の命に替えても抑える覚悟はあります」
「その言い方だと……エレファナが望めば国に従わないのだね?」
「従いません」
静かに聞いていたエレファナは、耳を疑った。
(セルディさま、先ほどからちょっと怪しい発言はありましたが……! 不届き者ではないと証明するためにここまでやって来て、その宣言はまずいのでは!?)
同じことを思ったのか、アステリオンの笑顔も固まっている。
「あのねセルディ……。この際口先だけでもいいから、適当に合わせたことを言って欲しいんだよ」
(そうですセルディさま。このままでは私ではなく、まさかのセルディさまが不届き者になってしまいます!!)
エレファナとアステリオンが訴えるように見つめても、セルディはためらう素振りすらなかった。
「誰の前でもそれは偽りません。たとえなにかを敵に回すことがあったとしても、私はただ、エレファナを守ると心に決めましたから」
「「……」」
いさぎよすぎる宣言に対し、室内に沈黙が訪れる。
セルディはそれ以上言わなかった。
ただ隣にいるエレファナに目を向けて、まるで少年のような無邪気な表情でにこりとする。
(あっ……そっくりです!)
エレファナはその飾らないセルディの笑顔が、ある人とよく似ていることに気づいて意外に思う。
一方アステリオンはセルディの正直すぎる発言に諦めた顔をしつつ黙り込んでいた。
やがて少し困ったような、しかしやはり嬉しいような不思議な表情を滲ませる。
「エレファナ」
「は、はい」
「君はあの黒銀の騎士に、一体どんな魔導をかけたんだい?」
(あっ、誤解を受けています!)
「アステリオンさま、私は人に直接魔導をかけるようなことはしませんので、ご安心ください」
不届き者ではないと伝える目的を忘れたわけではなかった。
しかしエレファナはやはりセルディと同じように、自分がここへ来てから感じていることを伝える。
「今日出会ったみなさんは仲良くしてくださいました。それにここは、ごはんのおいしい良い国です。微力ながら私もお守りしたいと思います!」
「それは心強いね。だけど例えば……セルディが君に、私を殺すように命じた場合はどうなのかな?」




