63・実は色々見られていたようです
アステリオンの嬉しそうな様子に、セルディは戸惑ったように言いよどんだ。
「私はエレファナのためなら、殿下のご命令に従わないと……。不敬ともとれる発言をしているのですが」
「ははっ、わかって言っているのか。それは確かに困るけれど、やはり感慨深いなぁ。私はずっと、手に入れては奪われることになにも感じていないような君を、歯がゆい気持ちで見てきたんだ。セルディはあらゆるものに興味を持てないというか……。執着することを無意識に放棄しているように思えて、ずっと心配だったよ」
アステリオンはどこかほっとしたように小さく息をつくと、エレファナへ顔を向ける。
「セルディの変化は、一途に思いを寄せ続けてくれる相手がいるからかな。エレファナは人の目なんて気にしないで『私はセルディさまの食べかたの方が好きです』って心から言ってくれるしね」
(あっ、先ほどの私とフロリアンさまのお話を聞かれていましたか!)
「はい。説明を求められたときは正直が一番だと思うので、そのままお伝えしました。私はセルディさまの食べ方が大好きです。苺より大好きなんです。大好きすぎて、ずっと見ていられます」
エレファナは心を込めた口調で大好きと繰り返すので、セルディはいつになく落ち着かない様子で目を泳がせて話を変えた。
「……すると殿下、先ほどの私たちとフロリアンさまとの一件も見ていたのですね」
「ああ、フロリアンね……。君にやられて彼も少しくらい反省したようなら、臀部によく効く火傷治しでも贈っておこうかな。あれは肌が元通り綺麗になる効果はあるけれど……かなり臭いから、治療中は不得意な女性遊びも控えてくれるかもね。しかしフロリアンがエレファナの存在について騒ぎ立てようとするから、なかなか面倒だったんだ。だから父上たちに余計なことをされるより先に、私が傾国の魔女の様子を確認できて良かったよ」
セルディも納得したように頷いた。
「それで突然、他の方たちがあまり気に留めない若者向けの夜会に、私たちを誘ってくださったのですか。私とエレファナがここに来た一件をあなたが主導したと知れば、あちら側から不満も出ると思いますが……。無茶をされますね」
「しかし君たち夫婦は予想以上に良くやってくれた。この少しの間で、君たちと出会った者はずいぶん好感を持っているようだからね。これなら王族側も彼らの手前、露骨に理不尽な対応をするのは難しいだろう。もちろん状況に過信は出来ない。とはいえ、ドルフ領を始め国内の魔獣の数が明らかに減っている事実もある。大丈夫、エレファナの待遇について静観を促す要素はそろっているよ」
セルディもほっとした様子で、アステリオンに深々と頭を下げた。
「いつもご助力、感謝しています」
「いいよいいよ。その代わり今度、ドルフ領で採れた果物の詰め合わせを送ってくれたら嬉しいな」
「季節ごとに贈ります」
(私も採るのをお手伝いします!)




