61・このお方はもしかすると
(誰でしょうか?)
現れた男性が目の前で立ち止まる。
エレファナはセルディの動きに合わせて、共に礼をした。
そしてそうすることが自然であるかのように、周囲もその男性に対して改まった様子となる。
(さらさらの金の髪をした、セルディさまにも負けない長身の男性です。口元に微笑をたたえているのに、向かい合うと身が引き締まるような思いにさせられるのは、天性の風格でしょうか。あっ、このお方はもしかすると……!)
「遊びに来てくれたんだね、セルディ」
「アステリオン王太子殿下。この度のお誘い、お心づかい痛み入ります」
「顔を上げて。今回は公式の集まりでもないし、堅苦しい挨拶よりもっと良いやり方があるだろう?」
王太子──アステリオンは和やかに言う。
そして自分に敬意を示し続ける周囲に対してぐるりと見回した。
「今宵は来城してくれた全ての者たちが、この場を華やがせてくれていることに感謝している。それぞれが思い思いに満喫してくれると嬉しい。では、みなにとって良い夜を」
アステリオンのよく通る声に対して拍手が溢れると、たおやかな演奏が流れ出した。
ある者は自然とホールの中央へと、そしてある者は壁際へと向かって軽食と歓談を楽しみ始める。
アステリオンがこちらへ目配せしてその場を離れた。
エレファナもセルディに伴われてついて行く。
セルディがアステリオンのそばに寄ると、低く囁いた。
「殿下、私たちの相手をしていてもいいのですか?」
「ああ。さっきは偉そうに挨拶したけれど、今夜は気難しい方の弟が主催した彼の恋人探しの延長だから、私は身軽なんだ。少しゆっくり話そう」
(やはり仲良しのようです。しかしどんなお話が待っているのでしょうか……)
アステリオンは二人に並んで歩きながら、エレファナへ視線を移した。
「よく来てくれたね。セルディから聞いているかもしれないが、私は彼の学生時代から付き合いがあるんだよ」
(セルディさまの学生時代……!!)
自分の知らないセルディの予感に、エレファナは静かな微笑のままではあるが、きらきらと瞳を輝かせる。
アステリオンはそれを確認して微笑むと、懐かしそうに続けた。
「あれは魔獣が大量発生した時期でね。私が騎士団長として緊急で招集した兵の一人がセルディだった。騎士見習いの貴族の学生が雑兵に紛れているなんて妙なことだけどね。でもフロリアンの家に引き取られ、そういう扱いを受けていたのだと後にわかったよ。とはいえ、そのおかげで早くにセルディと会えたのは僥倖だったし、ずいぶん助けられたな」
「それは私の方です。殿下が気にかけてくださって、本当に助けられました」
「謙遜かい? 誰もがセルディの実力を認めないわけにはいかなかったのは、事実なのだから」
(なるほど……お話を聞いているだけで、年月を経て培われた信頼関係が伝わってきます。それに二人とも会ったばかりなのに、すでに嬉しそうです)
エレファナが二人の会話を聞きながら深々と頷いているうちに、ホールを出て来賓用の洒落た個室に通される。
セルディと並び、数名の護衛を従えたアステリオンと向かい合って席に着いた。




