57・怖がられるかと思いましたが、違うようです
「これが気になっているのか?」
セルディから受け取った白い皿には、花びらのように一枚一枚重ねられた生ハムが、丸い青菜と合わせて、花に見立てられている。
(本物のお花かと思いましたが……食べられるのですね!)
エレファナはわくわくしながら、しかし顔はすましてそれを品よく口に運ぶ。
(塩味がしっかりとしていて、しっとりとした食感です! あっ、添えられているチーズと黒コショウの刺激的な風味がさりげない! セルディさま、これもおいしいです!!)
人前では怪しまれないよう騒ぐことはせず、エレファナは視線と心の声で訴える。
セルディには通じたらしく頷いた。
「ああ。苺のタルトを取ってくるよ」
(すごいですセルディさま。それにも気づいてくださっているとは!)
「わかっている二人分だな」
(そうです、一緒に食べるのです!)
心の中ではしゃいでるが、それは表に出さず、エレファナは花びらに口づけるように上品に生ハムを食べていると、ドルフ領での一件が浮かんでくる。
(そういえば以前、領内で迷っていたフロリアンさまのお連れの方たちに、生ハムみたいな髪の色と言われました。その後ブルーベリーの採り方を教えたら、すごく喜んでいただけましたが……みなさん元気にしているのでしょうか? あ)
エレファナは自分から少し離れた壁際で、大人しそうな三人組の令嬢に言い寄っているらしい、少し派手な服装をした若い男に目を留めた。
「俺は美食家でね、いつも最高級のものを食べなければ気が済まないんだ。我が家でもいつも一番高級な物しか買い付けないし、そういう環境で育ったからかな」
「そ、そうですか……」
大人しそうな令嬢たちは謎の自慢話を聞かされる相手として絡まれているのか、困り果てたように視線をさまよわせている。
そしてふと男の背後に目を留めると、瞳をぱちくりさせた。
「お久しぶりです、フロリアンさま」
エレファナが声をかけると、若い男はぎくりと肩を跳ねさせて振り返る。
「こっ、これは驚いたな。まさか君が来ているとは!」
「あら、知っていたのですよね? あなたが私のことを王太子殿下に伝えたため、この夜会に招待されたとセルディさまから聞きました」
「そ、それは……。そう、俺は見た通り気の利く男だからね」
フロリアンは着飾った令嬢たちを前に気取りたいのか、以前会ったときとは違い、芝居がかった振る舞いで言った。
「まぁ……君が俺の名前を忘れられなかったのも、見かけると声を掛けに来てしまう理由も分かるけれどね」
「はい。お名前もお会いしたときの出来事も、きちんと覚えています。あの火遊びのときの、おし、」
「もう過ぎ去ったことは忘れたよ」
早口で遮られたので、エレファナは納得して頷く。
(忘れたということは、お尻の火傷は気にならないほど軽かったのでしょうか。良かったです)
エレファナはフロリアンの後ろで、戸惑っていた令嬢たちがほっとした様子でこちらを見ているのに気づいた。
(私が来たら怖がられるかと思いましたが……違うようです)
エレファナは嬉しくなり、令嬢たちににこりと笑みを向ける。




