52・とっておきの合成魔導です
エレファナのてのひらには、彼女が身につけているものとよく似た、銀の指輪がのせられていた。
手品のように現れた指輪に、セルディは目をみはる。
「どういうことだ……?」
「とっておきの合成魔導です。セルディさまからいただいた指輪の素材を魔導術で複製して、心を込めたらできあがりです!」
「それは……今の一瞬で作ったというのか? 詠唱は? ……いや、確認の必要はないな。例え君がどのような力を持っていても、いなくても。そこのことは俺たちの間になにも関係無い」
セルディはエレファナの規格外の魔導に慣れてきたのか、今まで見たことも聞いたこともない現象に、そう納得した。
「ただ、その魔導の力は俺たちだけの秘密にしておいてくれるな?」
「はい、私たちの秘密にします!」
エレファナはセルディの指を取ると、緊張した手つきで銀の輪を通そうとするが、少し難しい。
(あら。明るい所でよくよく見ると、セルディさまの枷……)
「硬くて扱いにくい手だろう」
「そうなのですか? 私は真面目に鍛錬を積み上げた、ひたむきで大きな手だと思います。そして私が倒れたときは支えてくれたり、つらいときは撫でてくれたり、いつだって私を助けてくれました」
銀の指輪は所定の位置に収まると、魔導の加減で上手く調節されてぴたりとはまる。
「ふふ。セルディさま、似合っています!」
(今回の贈り物は成功はきっと成功です。なぜならセルディさまは、私が失敗したと思った耳飾りの色選びも、成功にしてしまったのですから)
自信のある様子で見上げたエレファナは、銀の指輪をつけてもらったセルディが、くすぐったそうに表情を緩めていることに気づき、はっとした。
唐突に、未知の感情が思わぬ強さを伴って込み上げてくる。
「エレファナ、いつもありがとう」
「は、はい」
向き合ってそう改めて言われると、エレファナはなんだかこそばゆいような落ち着かない気持ちになり、うつむいた。
「ありがとうと伝えたいのは、私の方です。セルディさまは動けなくてなにもできなかった私のことを、ずっと介抱して、励ましてくださいました。だから私は、そんな風にお礼を言われることなんて……」
「そうか。それは俺の配慮不足だ。いつだってそう思っているのに、感謝していることをエレファナに伝えていなかったな」
「……そうだったのですか?」
「ああ。君には感謝しかない」
エレファナは少しためらってから、静かに口を開く。
「……セルディさま、私──……」
「うん」
「わ、私……あの」
その先を言おうとしても、すでにあるのにどう表現すればいいのかわからなくなり、エレファナは口ごもった。
「セルディさま、私……!」
「うん、どうした?」
「はい。セルディさまも戸惑われたり笑ってしまう話かもしれませんが、いつものように私の考えを伝えたいのです!」
「そうか。聞かせてもらえるか?」
「はい! 私──……」
しかしその先が出てこない。
(この気持ちは、一体なんなのでしょうか?)
よくわからない心を落ち着つけたくて、エレファナははじめて、しかし自然とセルディに抱きついていた。
セルディの胸元に触れたエレファナの手にすがるような力がこもると、セルディはてのひらを重ねるようにそっと包んだ。




