49・旦那さまのことを教えてもらうのは楽しすぎます
「でも、私との結婚が聖職とか名誉職なのですか? その話ですと私は今の時代も怖がられているようなので、夫になることが名誉とは思えませんが……つまり政略結婚のようなものなのでしょうか」
「そう考えるとわかりやすいな。しかし俺は……おそらく他の人々も、君が本当に今も実在するとは思いもしなかった。ただ多少名を知られている騎士が、魔獣と魔女を抑えているという安心感を国民に示し、ドルフ領に関する責任を俺が受け持つという形をとっていただけだ」
「だからセルディさまは、どのようなことにも動じないと……無機質の騎士さまと呼ばれているのですね」
「……バートが言ったのか?」
「はい。セルディさまのことをもっと知りたいと独り言を呟いていたら、色々教えてくれました! 昔から誰も引き受けたがらない大任を淡々と受けてこなしていることや、それが成果をあげて地位と名誉を獲得していくうちに、国内外で名前が知られていること。でも他者からの評価には全く興味が無くて、ただ弱い立場の方が苦しまないためにはどうすればいいのか、ということを基本として行動する方だと」
「俺はつまらない男だからな。聞いても面白くなかっただろう」
「いいえ、楽しすぎました。果物全般が好きとか、ピーマンはちょっと苦手とか。服飾は興味がないのに、選ぶ品のセンスが良いとか。サインが達筆だとか! 貴族学校に通う一方で、武勲を上げすぎて在学中に騎士の称号も得て、さらに成績も優秀だったとか! 猫派か犬派か選べないほどどちらも好きだとか! でもアレルギーがあるのか、散歩中に寄って来る犬や猫がいると我慢できずに撫でて、あとで目が赤くなるとか!!」
「……あいつそんなにおしゃべりだったんだな」
「それに最近はドルフ領に魔獣が出なくなったので、砦を守る騎士たちの負傷の心配が減って喜んでいるのですよね?」
エレファナは満面の笑みを浮かべて、大きく頷く。
(そうです。なによりも私の旦那さまは、思いやりのある方なのです!)
「先ほどのお話を聞いて、私の夫になることはセルディさまのお仕事のひとつ、ということがわかりました。セルディさまが忌み地とか怖い魔女の見張りとか危険な魔獣討伐の団長とか、色々授かっているのは知っていましたが……あら? でもそれって全部、誰も欲しくないものだったのですね」
あっけらんと言うエレファナに、セルディの硬質な表情は思わず崩れた。
「そうでもないさ。少なくとも今の俺にとって、失うわけにはいかない」
セルディはエレファナを見つめながら穏やかに目を細めていたが、陽に照らされ神秘的に輝くステンドグラスを仰ぐ。
「ドルフ領の魔獣がいなくなったことは、君の協力と精霊の加護のおかげだ。感謝している。そのこともあり、近ごろはドルフ領の評判も良くなっているらしい。それを聞きつけて、忌み地であるドルフ領主となった俺に金輪際関わらないと明言していた、あのフロリアンさまがやってきたくらいだ」
「セルディさま、私のことなら大丈夫です。また彼がいらっしゃったら、転移魔導で逃げることをポリーと約束しましたから!」
「ああ。しかし手紙が来てな」
「手紙……? フロリアンさまからですか?」
「王太子殿下だ」
「!」
(セルディさま、まさか王太子さまと文通する仲だったのですか!!)




