48・私たち、気が合うのではないでしょうか
「セルディさま、私も家族のことはわからないのです。もしかすると私たち、気が合うのではないでしょうか」
「……気が合うとは、そういうことなのか?」
「わかりません。でも確かなことは、私はセルディさまから色々なことを教わって、毎日楽しい思い出が作られ続けているのです!」
「しかし俺の振る舞いから、君に悪影響がないとは……」
「では私もなにか良い方法を探します!」
エレファナは隣に立つセルディに迫るように寄り、なおも言い募る。
「セルディさまは私が役に立たなくてもいいのかもしれませんが、ここはお役に立ちたいです! セルディさまと会えなくなるのが嫌だからではなく、ただ私がそうしたいのです。だからセルディさま、そんなお顔はなさならいで、どうかご安心ください。もしかすると他の方とは違うのかもしれませんが、私たちのやり方で上手く行けば、それでいいのだと思います!」
エレファナが熱心に訴えると、セルディは少しためらっていたが、やがて小さく笑った。
「……ありがとう。俺はそんな君に、いつも救われているな。君が好意的だから、俺はその状況に甘えている気もする」
「あ……甘えてくださっているのですか! う、嬉しくてむずむずします。すっかり夫婦な響きです!」
エレファナが顔を緩めてはしゃいでいると、セルディはなにかを伝えるかのようにそっと抱きしめる。
そして覚悟を決めたように、静かに話を切り出した。
「エレファナは聞きたくないかもしれないが」
「聞きたいです!」
「まだなにも言っていないな」
「セルディさまのお話は、なんでも聞きたいですから!」
「……そうか。君はそうだな。いつも俺が思いもしない言葉を教えてくれる」
エレファナの笑顔を映したセルディの銀の瞳は、自然と柔らかい眼差しになっている。
そして自分の片手をあげると、その薬指に食い込む痣のようにも見える、魔導の紋様に視線を移した。
「俺は君と同じ枷を有しているだろう」
「ふふ、お揃いです!」
「俺は生まれたときからこれを……君と同じ魔導の枷を持っていたそうだ。そして騎士として多少名が通るようになると、国からドルフ領主となることと、君と婚姻を結ぶことを命じられた。それはドルフ地域で多発する魔獣の出現と、その原因と思われる危険な傾国の魔女の監視も兼ねられている。塔に封じられて、会うことすらできなかった魔女の『夫』という肩書きは、いわゆる聖職や名誉職のようなものだと思ってもらえればいい」
「そんな、私が知らずに眠っている間、そんなことが……!」
セルディは自嘲的に呟く。
「現存していることを知らずとはいえ、君に対して身勝手な話だとはわかっている」
「夫になってくれたセルディさまに挨拶もせず、のんびり寝ている場合ではありませんでした!」
「君は……いつも俺の予想を超えてくるな」
「まさか結婚式はセルディさまがおひとりで!? 私がぐうぐう眠っている間、セルディさまは一人二役でがんばってくださったのでしょうか!?」
「気にするべきはそこなのか」
「あっ、そうですね。まずはセルディさまが私の夫になってくださったこと! なによりこの点に感謝するべきでした!」
「それが結論なのか……」
「セルディさまは、かけがえのない方ですから!!」
エレファナは力強く頷いたが、ふと気づいたように首を傾げる。




