46・会ったときの直感は、やはり外れていませんでした
エレファナは林の中にしつらえてあるベンチに駆け寄ると、セルディと並んで座った。
そしてポリーから渡されたバスケットの蓋を開ける。
小麦の焼けた良い香りが立ち昇った。
「わぁ、おいしそうな匂いです! 今日のお食事も、料理長が直々に張り切って作ってくれたそうです!」
エレファナの存在については隠していることを怪しまれないように、ポリーとバート以外の一部の使用人たちにも『とある人が城内で静養している』とだけ説明してある。
(料理長はいつもおいしい食事を用意してくれます。バートを通じて「いつもおいしい料理を作ってくださってありがとうございます。おかげでどんどん元気になってきました」とお伝えしてもらっています。本当は直接会ってお礼を言えたらいいのですが……。料理長も私が何者か、怪しんでいるかもしれません)
バスケットの中には、小さな白パンがいくつも入っていた。
セルディがふっくらとした白パンを手に取り、まじまじと見つめる。
「笑顔のにゃんこだな」
「こっちはカピバラさん……ひよこさんにカメさんもいます!」
エレファナはわくわくしながら、バスケットの底にしまわれていた小さなランチボックスを開けた。
中には花の形のウインナーや表面のカリっとしたフライドポテト、樹木に見立てた鮮やかなブロッコリーには、食材を利用して作られた小花が飾られている。
その周囲には野菜や卵焼きで形成された星やハートがちりばめられたり、配色と味にまでこだわった色とりどりのフルーツが、それぞれが芸術的な調和を保って詰められていた。
「これは……料理長さんのメルヘンな世界です!」
「彼が隠していた心と技を見せてもらった気分だな」
料理長からの愛情が詰められた作品ともとれる軽食から、彼は会ったことのないエレファナを何者かと怪しんでいるかはともかく、領主の妻だとは気づいていないことが判明する。
(いつもの食事は向かい合っているので、目の前にセルディさまのお顔が見えます。でもこうやって隣に並んでいるのも近くにいる感じがして、違う良さがあります)
エレファナはセルディと共に、料理長の技巧と想いの込められた食事を取りながら、声を弾ませて何気ないこと──林で採れたものでたくさんの種類のジャムを作ったそれぞれの感想や、空を飛び去っていく見たことのない鳥、昨日服飾屋のカミラから届いたたくさんの品々について──など様々なことを話した。
お腹も満たされ、心地よい微風に吹かれていると次第にうつらうつらしてくる中、エレファナはぽつりと思う。
(会ったときの直感は、やはり外れていませんでした)
「セルディさま」
「ん?」
「私の旦那さまになってくれて。家族を教えてくれて、ありがとうございます」
エレファナはセルディの肩にもたれかかったまま、いつの間にか眠っていた。
*
「んん……」
エレファナが寝返りを打って目をうっすら開くと、左耳に赤い石が飾ったセルディが覗き込んでくる。
「よく寝ていたな」
「……はい。たくさん歩いて食べたので、なんだか眠くなってしまいました」
エレファナは寝ぼけながらも、自分に膝枕をしてくれているセルディの黒髪に手を伸ばした。
「セルディさま、少し濡れていますね」
「ああ」
セルディもエレファナの前髪に指を通すようにして撫でる。
「君がぐっすり寝ている間に通り雨が降って来たから避難した」
「避難……。そういえば、ここは一体どこでしょうか?」




