43・喜んでいただけたようです
(あっ! 髪の色を変えること、うっかり忘れてました!)
エレファナは進みながらも反射的に髪の色を胡桃色に直すと、男たちのすぐそばまでやってくる。
「こんにちは! どうなさったのですか?」
快活に挨拶するエレファナを、一番後ろにいる若い貴族風の男は観察するように見つめるだけだったが、ふたりの従者たちは嬉しそうにエレファナへ駆け寄った。
「あれ……あんた、ミルクチョコレートみたいな髪の色をしてるな」
「旨そうな色だが……さっきの色となんか違わないか?」
(あら。やはり直すのが遅かったのでしょうか)
しかしなんとかならないかと、エレファナはとりあえず確認してみる。
「髪の色がさっきと違っても違わなくても、なにも問題ないのではありませんか?」
「……そう言われるとまぁ」
「確かにそうだな」
「助かります! ええと……そうでした! なにかお困りごとのようでしたが、どうなさったのですか?」
「ああ、そうなんだ! 俺たちここの領主さんに会いに来たんだが、道に迷ってしまって腹も減って来てよぉ!」
「フロリアンさまのお腹が空いたっていうから、そこの実をとって食べてもらおうと思ったんだが、見てくれぇ!」
情けない顔をした二人はエレファナに向かって、ブルーベリーで染色された両手を広げた。
不器用すぎる男たちのてのひらに、エレファナがあんぐりする。
「……大惨事です!」
「俺たちブルーベリーを潰しまくってたから、フロリアンさまから『こんなものを俺に食べさせるつもりか!』って怒られていたんだ」
「そうですね、おふたりの採取ですとおそらく原形がないので……食べるというより舐めるくらいしかできないと思います。でも採るのは慣れるまで難しいですから、そんなに気を落とさなくてもいいのですよ!」
従者たちはエレファナに共感してもらえたと思ったのか、今までの苦労を交互に訴えた。
「やさしく握りしめたのに、ぶちって潰れるんだ!」
「そっとそっと、ぎゅっと握ったのに!」
「は、はい。やさしくても握りしめれば、ブルーベリーは潰れるのだと思います」
「「そうだったのか……」」
がたいのいい男たちが肩を落としているので、エレファナは慣れた様子でブルーベリーの実をいくつか採って二人に渡すと、ふたりははっとしたように顔を見合わせた。
「やさしさだけではダメだったんだな」
「このお嬢、すごいぞ」
「食べてみてください。このブルーベリーの実は本当に大きくておいしいです。セルディさまからいただいた、私の特別な木なのです!」
「これ、お嬢の木だったのか」
「勝手に採ってしまって悪かったな」
「いいえ。お腹が空いた人がいるのに、食べてはいけないことなんてありません。どうぞご自由に食べてください!」
てのひらに大粒のブルーベリーをのせた男たちは、もう握りしめる様子もなく、表情も明るくなった。
「ありがとうよ、お嬢!」
「お嬢は気がいいやつだな!」




