41・大切なことは楽しい思い出で覚えました
「あとはそうだな。乱暴なことをすれば木がダメになるから、それは気をつけたほうがいい」
「乱暴なこと……?」
「例えば刃物を使って木の幹を刺せばどうなるか、エレファナも想像できるはずだ」
「あっ、セルディさまが教えてくれました! 刃物は危ないので、人に向けてはいけないのです。だからセルディさまが木の幹を持ってきてくれたとき、きちんと約束を守って均等に切り分けました」
「そうだったな。……しかしあのブッシュドノエルは、木ではなくケーキだな」
「そうでしたか。幹の形も味も好きでした!」
「ああ。また買って来よう」
「楽しみです!」
エレファナがにこにこしているのでセルディは頷きつつも、「乱暴な振る舞いをすることでつきまとう危険性について話しているはずだが……これで伝わっただろうか?」と首をひねる。
「それにエレファナは魔導を使えるから今さらの話になるが。なにかを凍らせたり燃やすとどうなるか、よく知っているはずだ」
「はい! 卵牛乳生クリーム砂糖を混ぜて魔導で凍らせたら、なんとアイスクリームができます! 夢中になって食べたら頭がキーンと痛いのです」
「しかしあれは本当にうまかったな」
「魔導でおこした炎でたき火もしました。できたての焼きいもが熱すぎて、火傷しかけました」
「ああ。なかなか食べられなくて待ち遠しかったな」
「全部セルディさまとの楽しい思い出で覚えました!」
「……つまり、もちろん君は無知な幼子のように、火遊びなど危険なことをしたがらないだろうが。扱うものによっては、自分が怪我をする可能性もあるということを話したかった。木の世話に限らず、そのことは忘れないでくれ」
「そういう話だったのですね!」
「……もっと身の危険を感じる内容だったはずだが。君と話すと全て幸せな記憶にすり替えられていくような、不思議な感覚というか……しかしその方がいい気もするな」
「セルディさま、大丈夫です。私は無暗に火遊びなどしません!」
「ああ、つまりそういうことを伝えたかったんだ。これなら君に、安心してこの木を任せられるな」
「任せてください!」
それからエレファナの日課には、近場の散歩が追加された。
エレファナは自分の世話をする木ができたことが本当に嬉しかったらしく、少しずつでも毎日のように食べに行くので、ブルーベリーの実も潰さず手早く採れるようになってくる。
その道中、エレファナが他の木の実や果実に興味を持って色々聞くと、セルディも見かけるたび教えてくれるようになった。
そうして食材になる野草や山菜を採ったりすることも増え、ときには魔導で大量収穫して城に持ち帰って配ると、通いの使用人たちにも喜ばれた。
かつては魔獣の巣くう忌み地と恐れられているドルフ領だったが、近ごろは通っている騎士や使用人たちからも「魔獣は出ない。食堂のごはんはおいしい。一般では売られていない品や高くて買えない食材、貴重で効果の高い薬まで支給される」と、評判は高まる一方だった。
そんなある日のこと。
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