37・妻の指先はくすぐったい
「これは女性も男性も着けられるものだそうです。ポリーもカミラさんも、私の品を選んでいるのが楽しそうだったので、私もセルディさまになにか贈ってみたくなりました。でも色選びに失敗してしまったので、このまま秘密にしておこうと思っていたのですが……見つかってしまいました」
「そういうことだったのか」
セルディは話を聞き、エレファナが耳飾りを見つけて喜ぶ姿が目に浮かぶようで微笑ましい気持ちになったが、本人は失敗したと思ってしょんぼりしている。
セルディはエレファナに顔を寄せ、耳を向けた。
「着けてくれないか?」
「でも私……色を間違えました」
「間違えてはいない。この色を見ると、一緒に苺を食べたことを思い出すだろう?」
「は、はい。カミラさんがこれを勧めてくれたとき、あの気持ちを思い出しました。その……もしかすると、もらってくれるのですか?」
「もちろん。君が俺に選んでくれたのだから」
セルディが動かず待っていると、耳元にエレファナの指先が触れて、くすぐられているような心地になる。
「セルディさま、バートみたいな横顔になってます」
「……ああ。大笑いしそうだ。早めに頼む」
「セルディさまの大笑い、見たいです!」
「それは今度にしよう。夜に大声を出せば、休んでいる者たちを起こしてしまうだろう」
「そうでした、ポリーとバートが寝ています!」
その後も少し時間はかかったが、セルディの左耳に赤い石が飾られる。
ささやかな変化だというのに、いつもと雰囲気ががらりと変わった美しい夫を前に、エレファナは賛美の眼差しを輝かせた。
「セルディさま、とても素敵です!」
「そうか?」
「そうです! 本当に素敵です!!」
「そうか」
「見た人が強制的に幸せな気持ちさせられるほど素敵です!!」
「そ、そうか……?」
褒めちぎられると落ち着かなくなり、セルディは目を逸らす口実として立ち上がると、そばの壁掛け鏡を覗き込む。
鏡に映った黒髪の若い男が、こちらを見ていた。
左耳に飾られた小さな赤い宝玉に目を引かれたが、普段から着けているような自然さで、もはや自身の一部になっている。
「エレファナは相手に合わせて品を選ぶのが上手いな。ありがとう、気に入ったよ」
呟いたその様子は愛想が良いわけでもないが、以前の自分とはどこか違う気がした。
(彼女と会う前のことなど、思い出すこともできないほど遠い日々に感じるな。ただ偶然俺に枷があったため、危険な魔女を抑えるという役目を厳粛に淡々と務めるはずが、今は……)
「そうだ。エレファナとまだ果たしていない約束があったな。覚えているか?」




