33・旦那さまの笑顔が見たいのです
「セルディさま、ご安心ください! セルディさまから『魔導の力は他の人に知られないように』と言われていたので、カミラさんには秘密にしています! 移動したのは私ではなくて、バートがしたことにしてもらいましたから!」
「しかしバートが多少鍛錬を積んでいるとしても、カミラとポリーが軽食を取っている間にひとりで荷を運び出すというのは……さすがに鍛えすぎている設定だと思うが」
「そうなのです! だからバートがカミラさんに見られる前に衣装部屋を封鎖して、短期間で大量の荷物を運んだのはバートと城の屈強な使用人たちということにしてくれました!」
エレファナはその他にも、カミラの気に入った紅茶の茶葉とサンドイッチをお土産に渡して喜ばれたことや、馬車に積んだ品は一定時間だけ重量を軽減する魔導を残して、荷を運ぶ馬の負担が軽減した話を嬉しそうに報告する。
「お見送りしたあのお馬さんも足取りが軽かったようです! 今日はみんな疲れたはずですが、それでも元気に過ごせたと思います!」
エレファナが楽しそうに報告すると、セルディも納得したように頷いた。
「俺はてっきり、エレファナが自分の物を選んだり手に入れることを喜んでくれると思い込んでいたが……そうか。君は自分のことのように、相手を大切にしたい気持ちの方が強いのだな」
「そうなのですか? でも自分の欲しい物を見つけたときは、とてもわくわくしました! セルディさまが教えてくれることは、良いことばかりですね」
「……そうか?」
「はい。私は自分が欲しい品を選ぶ楽しさを知りました。カミラさんは仲良くなったポリーと一緒にサンドイッチを食べましたが、その気持ちを想像することもできます。セルディさまが私と苺を分けて食べた、あの気持ちを教えてくれたからです! セルディさまがお話をしてくれると色々なことを覚えますし、体を大切にすることも、食事をおいしくとることも、きっとまだまだたくさんあります。だから魔力も戻ってきて、精霊が元気になってきました!」
エレファナが自分の好きなように過ごした充実感の中、両手をぎゅっと握りしめて誇らしげに頬を染めている。
セルディは静かにその手を包んだ。
「俺はエレファナが、今までのことをそのように捉えてくれて嬉しく思っている。だが相手のためとはいえ、その魔力を使えば他人に知られる可能性があることを忘れないでくれ。俺は君に、ここへ来る以前のような思いをして欲しくない」
(あら……私の話でセルディさまは笑顔になるというより、つらそうなお顔になってしましました)
笑顔を見るどころか心配させているのだと気づき、エレファナは真摯な気持ちで頷いた。
「大丈夫ですよ、セルディさま!」
そしていそいそと寝台から降りる。
「……エレファナ?」
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