30・主が変貌しすぎて別人かと疑われている
動揺する息子に気づかず、ポリーはカミラとすっかり打ち解けた様子でエレファナ自慢をはじめる。
「エレファナさまは、どんなお食事を出しても、なんでもおいしそうに食べてくれる方なのです。私は断然ハムチーズ派ですが」
「まぁ、装飾品選びと同じですね。エレファナさまのように身に着ける品へこだわりが無くて、でもどれでも着こなしてしまえるような魅力的な雰囲気の方は、はじめてお目にかかりました。私は間違いなくたまごサンド派ですね」
「でも私はエレファナさまを見習って、全種類いただきますよ」
「もちろん私もそうです。でもどれを見ても本当においしそうで、目移りしてしまいますね」
「ふふ。その辺には自信があります。エレファナさまがいらしてからセルディさまの言いつけで、最近は少しでも品質と栄養価の高い物をと、食材からこだわって仕入れるようになりましたから」
そう聞くとカミラは少しためらったが、やはり確認するようにポリーに聞いた。
「ポリーさま、あの……セルディさまって、あの黒銀の騎士のセルディさまとは別の方なのでしょうか?」
「いいえ。別人かと疑いたくなるくらいの変貌を遂げましたが、あの黒銀の騎士と呼ばれているセルディさまです」
「そ、そうですか」
「そうです」
ふたりはなにか思うことがあるのか、しばらく黙ってサンドイッチを頬張り続ける。
「「…………ふふっ」」
そのこぼれるような笑い方が、よく似ていた。
不覚にも目の奥に熱いものが込み上げてきて、バートは深呼吸をすると、改めてエレファナに感謝した。
(セルディさまは自分との関係が、奥さまに与える影響を懸念していたけれど……)
エレファナがやって来てからのセルディと、そしてエレファナが周囲の人に接する様子を思い出すと、なにも心配はいらない気がしてくる。
(奥さまは不憫な境遇だったようだし、今くらいの溺愛っぷりがちょうどいいのかもな。でもあれ、セルディさまは本当に無自覚なのか? あんなにあからさまなのなのに……)
バートが若干うつむき気味で口元を抑えていることに気づき、ポリーが呆れたように声を上げる。
「バート、またにやにやして……どうせエレファナさまがいらしてからの、セルディさまの変貌でも思い出しているのでしょうけれど」
「そうです。彼女が来てから、腹筋が発達してくるほど笑わせてもらっています」
「気持ちはわかりますが、はた目から見ると締まりのない表情ですよ。せっかくかわいい顔に生まれたというのに……」
「母さん、セルディさまにも注意されていると思いますが、僕たち結構いい歳になってきましたからね。そういう表現そろそろやめましょうか」
「わ、わかっていますよ」
少し気まずそうなポリーに、隣に座るカミラがなにか楽しそうに囁くと、ポリーも気を取り直した様子で互いに冗談を言い合い始めた。
(思えばカミラと会ったときの母さんは緊張していて、偏屈で気難しそうな印象だったかもな。奥さまと母さんの様子を見て、カミラの想像していた実母のイメージが変わったのかもしれない)
二人の笑い声を背に、バートはいつになく幸せな気持ちでその場を去り、エレファナの様子を見に衣装部屋へと向かう。
(奥さまは、僕ができなかったことを叶えてくれたな……ん?)
進む足にわずかな追い風を感じた。
(おかしいな。衣装部屋の窓を開けているのなら、向かい風が流れ込んでくるはずだ。なぜ風向きが逆なんだ?)
わずかに開いていた扉を開いて衣装部屋に入った直後、バートはその光景に足を止める。
「奥さ……えっ!?」




