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【完結】愛を知らない傾国の魔女は、黒銀の騎士から無自覚に愛着されて幸せです  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
3章

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30/83

30・主が変貌しすぎて別人かと疑われている

 動揺する息子に気づかず、ポリーはカミラとすっかり打ち解けた様子でエレファナ自慢をはじめる。


「エレファナさまは、どんなお食事を出しても、なんでもおいしそうに食べてくれる方なのです。私は断然ハムチーズ派ですが」


「まぁ、装飾品選びと同じですね。エレファナさまのように身に着ける品へこだわりが無くて、でもどれでも着こなしてしまえるような魅力的な雰囲気の方は、はじめてお目にかかりました。私は間違いなくたまごサンド派ですね」


「でも私はエレファナさまを見習って、全種類いただきますよ」


「もちろん私もそうです。でもどれを見ても本当においしそうで、目移りしてしまいますね」


「ふふ。その辺には自信があります。エレファナさまがいらしてからセルディさまの言いつけで、最近は少しでも品質と栄養価の高い物をと、食材からこだわって仕入れるようになりましたから」


 そう聞くとカミラは少しためらったが、やはり確認するようにポリーに聞いた。


「ポリーさま、あの……セルディさまって、あの黒銀の騎士のセルディさまとは別の方なのでしょうか?」


「いいえ。別人かと疑いたくなるくらいの変貌を遂げましたが、あの黒銀の騎士と呼ばれているセルディさまです」


「そ、そうですか」


「そうです」


 ふたりはなにか思うことがあるのか、しばらく黙ってサンドイッチを頬張り続ける。


「「…………ふふっ」」


 そのこぼれるような笑い方が、よく似ていた。


 不覚にも目の奥に熱いものが込み上げてきて、バートは深呼吸をすると、改めてエレファナに感謝した。


(セルディさまは自分との関係が、奥さまに与える影響を懸念していたけれど……)


 エレファナがやって来てからのセルディと、そしてエレファナが周囲の人に接する様子を思い出すと、なにも心配はいらない気がしてくる。


(奥さまは不憫な境遇だったようだし、今くらいの溺愛っぷりがちょうどいいのかもな。でもあれ、セルディさまは本当に無自覚なのか? あんなにあからさまなのなのに……)


 バートが若干うつむき気味で口元を抑えていることに気づき、ポリーが呆れたように声を上げる。


「バート、またにやにやして……どうせエレファナさまがいらしてからの、セルディさまの変貌でも思い出しているのでしょうけれど」


「そうです。彼女が来てから、腹筋が発達してくるほど笑わせてもらっています」


「気持ちはわかりますが、はた目から見ると締まりのない表情ですよ。せっかくかわいい顔に生まれたというのに……」


「母さん、セルディさまにも注意されていると思いますが、僕たち結構いい歳になってきましたからね。そういう表現そろそろやめましょうか」


「わ、わかっていますよ」


 少し気まずそうなポリーに、隣に座るカミラがなにか楽しそうに囁くと、ポリーも気を取り直した様子で互いに冗談を言い合い始めた。


(思えばカミラと会ったときの母さんは緊張していて、偏屈で気難しそうな印象だったかもな。奥さまと母さんの様子を見て、カミラの想像していた実母のイメージが変わったのかもしれない)


 二人の笑い声を背に、バートはいつになく幸せな気持ちでその場を去り、エレファナの様子を見に衣装部屋へと向かう。


(奥さまは、僕ができなかったことを叶えてくれたな……ん?)


 進む足にわずかな追い風を感じた。


(おかしいな。衣装部屋の窓を開けているのなら、向かい風が流れ込んでくるはずだ。なぜ風向きが逆なんだ?)


 わずかに開いていた扉を開いて衣装部屋に入った直後、バートはその光景に足を止める。


「奥さ……えっ!?」





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