27・奥さまの考えは
(なるほどなぁ)
バートは使用人である自分に対し、ためらいなく頭を下げている主の妻に心底敬服していた。
「奥さま、僕は平気ですから。どうかお顔を上げてください」
「しかし私が頼んだのです。本当に申し訳ありません。バートを困らせてしまうのではないですか?」
「いいえ。このような場合でも無駄にはなりませんよ。ですから奥さまが気にすることなど、全くありません。それに僕はあなたの考えをわかっているつもりですから。その点もご安心ください」
語尾に含みのある質問を混ぜたが、それにエレファナがどう返事をするのか。
「エレファナさま、大変お待たせいたしました。品の確認が済みましたよ」
バートはかなり気になっていたのだが、機嫌良くポリーがカミラと共にやって来たため、エレファナの答えを聞くことはできなかった。
「あっ! ポリー、カミラさん、私の品の準備をしてくださって、本当にありがとうございます」
振り返ったエレファナの胸元と耳元には、紅玉の飾りがまばゆく輝き、よく似合っている。
二人とも思わずにんまりしているのを見て、バートは吹き出しそうになるのをぐっとこらえた。
(全く二人とも……同じ顔して喜んでる。本当に奥さまは、カミラに不思議な魔導をかけたとしか思えないな)
エレファナはポリーとカミラに駆け寄ると、交互に相手を見ながら訴えた。
「実は私、カミラさんにお願いがあるのです」
「なんでしょうか? 遠慮せずおっしゃってください」
「ありがとうございます。私はカミラさんが持ってきてくださった品を、一人でじっくりと見たかったのです。お時間はあまり取りませんので、急ぎますので……どうか少しだけ、私に時間をいただけませんか?」
そして心から申し訳なさそうに頭を下げたので、カミラも慌てた様子でエレファナに頼み込む。
「エレファナさま、一介の服飾屋に頭を下げるなどおやめください。品はまだ片づけておりませんし、時間にも余裕があります。どうぞお気兼ねなくご覧ください」
「カミラさん、ありがとうございます!」
頭を上げたエレファナはぱっと顔を華やがせると、軽やかな足取りで進み始めた。
ポリーとカミラは当然のようにエレファナについて行こうとする。
しかしエレファナはくるりと振り返り「ひとりで大丈夫です!」と微笑んだのを見て、バートの予想は確信に変わった。
「私、急ぎますので! 二人は私が先ほど食事を取っていたお部屋で休憩していてくれますか? うるさくしないように気をつけます。それに困ったことがあれば声をかけますので!」
「しかし、」
「母さん、エレファナさまを困らせないでください。セルディさまからも、エレファナさまのご意思を一番に、と言い付けられているのですから。エレファナさま、ごゆっくりどうぞ」
バートが助け舟を出すと、エレファナはほっとしたような笑顔になり、衣装部屋へと向かう。




