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【完結】愛を知らない傾国の魔女は、黒銀の騎士から無自覚に愛着されて幸せです  作者: 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
2章

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16・最後の楽しみは、特別な味がします

「私が元気になったら、精霊やセルディさまのため以外に、なにかお役に立てることがあるのでしょうか?」


「役に立つかもしれない。だけど、役に立たなくてもいい」


「それは……」


 エレファナからさっと表情が消えて、セルディは慌てて訂正する。


「もちろん俺と会えなくなるわけではない。エレファナがよく休むことで、精霊が元気になっているのも事実だ。しかしもう君を縛る帝国はない。役に立つかどうかはともかく、君のしたいことがあれば遠慮せずにして欲しいと思っている」


「私のしたいこと……?」


 エレファナはぱちぱと目をしばたかせた。


 そしてエレファナは初めて自分の意思で動いたのが、婚約破棄を受けてから魔導研究所へ向かい、命が尽きかけていた精霊を助けようとしたときだったと気づく。


「でも私、まだ自分の時間を使い始めたばかりだからでしょうか。なにをしたいのか、すぐに思いつきません」


「無理に急ぐようなことではないさ。そうだろう?」


「セルディさまが言うと、そんな気がしてきました」


「難しく考えることではないからな。ただ俺が、君の好きなように過ごして欲しいだけだ」


「そうなのですね。うまくできるかわかりませんが……セルディさまはいつも良いことを教えてくれますし、ぜひそうしてみたいと思います!」


 エレファナは決意を新たにすると、あとわずかになってきた美食を堪能し始める。


(トマトのスープはたくさんの味がします。多くの素材がこのひとつに凝縮されている……なんて贅沢な一品なのでしょうか)


 エレファナが心底おいしそうに食べるその様子を見つめながら、セルディはつられるように同じ品を口に運んでいた。


(そして、ついに……!)


 いよいよ最後の苺だけとなる。


 エレファナは自分の皿に取っておいたそれを、丁重に食べてみた。


(最後の楽しみ……これは!)


 苺にはしっかりとした甘みとほのかな酸味があり、果肉を噛むとみずみずしさが口の中に溢れる。


「こ……これは、特別な味です!!」


「ん、気に入ったのか?」


「はい、とても! セルディさまは苺を食べるときが、一番おいしそうな顔をしていますから!」


「それは……バートにも言われたことがあるな。幼いころは好き嫌いをポリーに指摘されて『ピーマンも苺の味になれば山盛り食べれるはずだ』と言い訳したこともあった」


「そこまでですか!」


 背後に控えるポリーとバートは、大きく頷いた。


「そのせいでしょうか。セルディさまが苺を食べているお顔を見ていたら、私はもっと苺が好きになりました。だからまた一緒に……あ、そうです。私のしたいことは、セルディさまと一緒に苺を食べることです! セルディさまとお話ししていたら、したいことがあっという間に見つかりました!!」


 エレファナの満足そうな微笑みに、セルディの硬質な銀色の眼差しも自然と柔らぐ。


「……俺も。エレファナと話をして、したいことが見つかった」


「! 気になります!!」


「そうだろう?」


「そうですよ、全くもってそうです!! 一体それはなんでしょうか!?」






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